アミ 小さな宇宙人

「もどってきたアミ」第12章 キア、またいつの日か

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第12章 キア、またいつの日か

満面に笑みを浮かべながら、アミは僕たちに言った。
「きみたちになにか質問される前に、まず遠隔催眠について説明しよう」

直ぐに、僕はまたバカな質問をしてしまった。
「アミ、それってテリにも使えるの?」

アミは笑って、
「もちろん。遠隔催眠にせよ、暗示による催眠にせよ、彼らのような意識の水準の低い人のほうがずっとかかりやすいんだよ。

だから、宣伝やコマーシャルはそういう人たちに対して、計り知れないような大きな効果があるんだ。進歩している人っていうのは、より意識が目ざめているからね」

クラト老人が笑いながら掘っ立て小屋に入ってきた。
テリが私たちを見つけてしまうのが怖くなかったの?とビンカはクラト老人にたずねた。

「わしは、もうアミのトリックについてはちゃんと知っているからね」

と言って、過去にいちど、アミが逃亡中の四人のワコ・・・だかスンボ・・・だか(どちらだか今ははっきり覚えていない)を、巡視隊の追っ手からどうやって救ったのかを語ってくれた。巡視隊はすみずみまでさがしまわったにもかかわらず、目の前にいた四人を見つけることができなかったというのだ。

「私だったら絶対にテリなんか助けないわ。そうやって、お互いに争ってはやく自滅してしまったほうが、どれだけキアの平和のためになるかわからないわ」
とビンカが言った。

「テリとスワマは兄弟だよ。スワマには、テリを教え導き、保護する義務があるんだよ」
とアミが言った。

クラト老人はまるでとんでもないことを耳にしたと言わんばかりに、両手をひろげ天を仰いで言った。

「テリを導き、保護するだって?何もわかっちゃいないようだね、アミ。ヤツらは武器を持ってわしらを支配しているんだよ。平和主義のわしら、スワマをね。わしらはヤツらのような物質主義者じゃない。目の色を変えて権力や金を求めない。

それをいいことにヤツらは、わしらのことをバカで弱虫の劣等な人種とみなしているんだ。あんな物質主義者のテリを導いてやるなんてことは、いつになっても絶対に不可能な話さ。

ヤツらの唯一興味のあることといったら、テリ・ワコとテリ・スンボの戦いだけだ。その戦いのせいでわしらの生活は全く悲惨なものだよ。

キアの全ての資源はみな武器をつくるためにまわされてしまっているんだ。そうやってつくった武器をヤツらはいつか使いはじめるさ。そしたらキアは直ぐにでも自滅しちまうよ」

「もし、きみたちがそうやってなにもしないでいたら、そのとおりになるだろうね」
とアミが言った。

「でも、わしらに一体なにができるって言うんだい?」

「彼らに平和や統一や愛のことを説いて教えて上げるんだよ」

それを聞いたクラトは嘲笑するように言った。
「テリにそんなことを言ったら、直ぐに頭がおかしいことにされて病院に放り込まれちまうのがおちだ。ヤツらにとって愛とはセックスを意味している。

せいぜいが自分の家族に対する愛どまりだよ。たとえ同じテリどうしでも、いつもお互いに、爪を立て牙をむき出しているんだから」

ビンカはクラトの言うことは正しいと言った。

アミは笑った。

「わしらは現実主義者だ」

アミはまた笑って、
「現実主義者だって?きみたちのキアが破滅寸前だというのに、手をこまねいているだけでなにもせず、それで本当に現実主義者だと思っているの?・・・」

「だって、ヤツらはわしらの言うことなんか絶対聞きやしないよ・・・」

「いや、聞くよ。もう直ぐ彼らは恐ろしい大失敗をやらかす。そうしたらきみたちの言っていることを聞きはじめるよ。もしそのとききみたちがいなかったとしたら、どうしたらいいかわからなくなって、彼らも、きみたちも一緒に自滅する以外にすべがなくなってしまうよ」

「でも、そのときは”宇宙親交”の円盤が、私たちを助けにきてくれるんじゃないの?…」
ビンカが言った。

「自分たちの世界を良くするために、働いている人たちだけを救済するんだ。自己救済だけをめざしている人じゃなくてね」
とアミが答えた。

「わしにはその世界のためっていうことがどうもよくわからんよ」
とクラトが小屋を出ながら言った。

「わしには、ただ幸福についてだけしかわからん」

アミは、僕たちの肩に手をかけて、一緒に外に向かって歩きながら言った。
「それもとても重要なことだ。自分自身に対する愛は、自分の幸福をさがすことにつながる。

他人に対しての愛は、他人に奉仕すること、他人の幸福のために働くことにつながる。このふたつの力は、お互いにバランスがとれているべきなんだ」

クラトは少し考えこんだあとで、頭をかきながら言った。
「思うに、わしはあまり他人のことについて考えたことがなかったようだよ。この山の中にこもったきりで・・・。アミ、どう思うかね?」

「考えることではなくておこなうことさ。いずれにせよ、きみはもうすでに人のためにかなりのことをやっているよ、クラト。自分で意識していないだけでね」

「わしが?ホッホッホッ!全く想像もできないよ。でも何を?…」

「あの、いつか書いたやつ、なん年か前に僕に読ませてくれた例の羊皮紙だよ。そのために僕たちはきているんだ。そこには、どうやって愛を手に入れるか、その方法が書いてあったね。ビンカもペドゥリートもその方法を知らない。

彼らはこれから大勢の人に読まれる本を書く。そこにきみの書いたことが載るんだよ。そしてそれが、結果としのて沢山の人を助けることになるんだ」

クラト老人はアミの言っていることが全く信じられない、全て冗談だろう、といった表情をしていた。

「でも、わしにはそれが、そんなに重要なこととは思えないよ、アミ。誰だって知っていることだし・・・」

ビンカはクラトの間違いを指摘した。
「もしその紙に本当にどうやって愛を手に入れるのかが書いてあるんだとしたら、重要じゃないなんて大間違いよ。誰もが知っているわけじゃないわ。私知らないもの、それ」

「僕も知らないよ」
僕もクラトのその羊皮紙がはやく見たくて、ウズウズしながら言った。

「でも、とてもたやすいことだよ!」

老人には、自分の知っている知識がそんなに重要なことだとは、どうしても納得できなかった。

「きみにとっては優しいことでも、多くの人にとってはそうじゃないんだよ。はやく小屋へ行って羊皮紙を持ってきて、この子たちに見せてあげてよ」

「わかった。わかったよ。でも、どこに置いたかな?エーと・・・ひょっとするとチュミチュミが食べてしまったかもしれない。ホッホッホッ!」

老人は小屋の中に入っていった。アミはその姿を優しい目で見送ると、僕たちに言った。

「世の中には、自分がやれることや、持っているものに対して、なんの価値もみいだせない人がいる。また反対に、それらを実際以上に価値があると思いこんでいる人もいる。

その両者とも正しくない。多くの人々にとって、ものごとの中にバランスのとれた中心点を見つけるのはたやすいことじゃないんだよ」

クラト老人が汚れた紙筒のように細くまるめられた羊皮紙を手に戻ってきた。
「次の冬のために用意してある薪のあいだにはさまっていたよ。羊皮紙は火をつけるのに役立つからね。ホッホッホッ!」

紙筒を受け取るとアミはそれを片手に持ち、もう片方の手で腰のベルトから小さな器械を取り出し、そのあとでその器械の前に羊皮紙を広げた。写真を撮っているのかなと僕は思った。

「登録しているんだ。この羊皮紙に書かれてあることは今、”スーパーコンピューター”にインプットされたよ。クラト、もうこれでいつ燃やしたっていいよ」

「ダメよ、そんなこと!私、それ見たいわ」
とビンカがさけんだ。

「ここにオリジナルよりずっと綺麗で見やすいコピーがあるよ」

やがて器械のみぞから白い紙が出てきた。それは一種のフォト・コピーで、サイズはオリジナルより少し小さかった。ビンカはしきりにそれを読みたがった。アミはほほえみながら、その紙を広げて彼女に見せた。

「うわぁ!この言葉わからないわ!私」
とビンカは絶望的な声を出してさけんだ。

「僕はこれからこの訳を自分の手で書きあげなければならない。決して簡単なことじゃないよ。そのうえ僕は字が上手じゃないし。でも、どうしてもきみたちの本に載せるためにも、それぞれの言葉に訳したものをつくらないといけないんだ」

ずっとあとで、この本の出版の準備をしているとき、アミの手書きのものをそのまま載せたらいいのか、あるいは印刷の活字でいいのか、アミがどちらを望んでいるのか考えあぐねてしまった。

結局、ふたつの方法をとることにした。そうすれば、読者もアミの字を目にすることができる。

この手書きのオリジナルは、神聖なものとして大事にとっておくことにした。なぜならこれこそ、アミが実在しているという、唯一目に見えるたしかな証拠なんだから。なのにいとこのビクトルときたら、相変わらず僕の言うことを少しも信じようとせずに、僕がかってに字を変えて書いたんだと思っている。

彼にとってこれはたんなる僕の空想にしかすぎない。本当に残念だけれど、しかたのないことだ。ただ信じられない彼が損するだけのことだ・・・。

「本当にごめんね。字があまり上手じゃなくって。でも、想像してごらん。もし中国人の字で書かなければならないとしたら、それがどんなに難しいことか・・・」

「その中国人って、いったいなんだね?」
クラト老人が聞いた。

ビンカがまっ先に答えた。
「ペドゥリートの惑星のある国の人たちのことよ。目がとても美しいの・・・こうよ」
と言って、両目を人さし指でよこにつりあげた。

アミも僕も笑ってしまったけれど、クラト老人は考えこんでしまった。

「アミ、もし、わしをきみのその空飛ぶ装置に乗せてくれたら、そういう目のばあさんと知り合いになれるかもしれない・・・。中国人ってガラボロの辛子煮を食べるのかい?」

アミは大笑いしたあと言った。
「もし中国人がガラボロを食べないとしたら、それはガラボロが簡単には手に入らないからだよ。もし、それが手に入るとなったら、彼らは何千種類もの料理法でそれを食べるだろう。彼らは実際なんだって食べるんだ!なんだってね」

「じゃ、中国人って、とってもいい感覚しているよ。こりゃ、どうしても、そこに行きたくなったよ」
と老人が言った。

僕にはクラトが食べ物に対してあまりにも貪欲な気がした。

「これがスワマ人の精神性だとしたら、いったいテリはどうなっているんだろう・・・」
アミが笑って言った。

「テリは人生を楽しむことを知らない」
と老人は言った。

「戦争や権力やお金の獲得のために、あまりにも忙しすぎるんだ。そしてそれを手に入れたら入れたで、今度はもっと多くを手に入れようとして躍起になる。決して人生を楽しむ時間なんかない。豊かな感覚というものがないんだ。あわれにも人生をまったく浪費しているんだよ・・・。
ところで、ガラボロの辛子煮が待っているよ。一緒にやろうや」

アミはクラトの”哲学”を笑って言った。
「この大食漢の老人は楽しむことしか考えないようだね。たしかにそれは一面では正しい。でもあくまで一面ではだ。他人のことを全く忘れてしまってはいけない。

自分自身と同じように他人にも奉仕できる人は、最後には自分のことしか考えない人よりも、ずっと多くのよろこびを手に入れることができるんだ。この老人は僕の知る限りスワマの中で一番精神的じゃないね・・・」

「そうかもしれないよ。でも、わしの書いた紙っぺらが何千人もの人のためになるんだとしたら、ガラボロを楽しむ権利くらいは許されてもいいだろうよ、ホッホッホッ!さあ、中に入ろう。もう、いいかげん腹が減ったよ」

クラト老人は小屋の中へ入ろうとしたが、アミはこう言った。
「クラト、僕は肉は食べない。それに我々はもう行かなくちゃならないんだ」

「僕もガラボロは食べない」
と、そのむかつくような鍋の中をいちども見ずに僕も言った。

「クラト、僕には畑のムフロスで十分満足だよ。ありがとう」

「きみたちが食べないというのなら、わしが人りで楽しむとするか。ホッホッホッ!でももう行ってしまうとは残念だ。いつかまたきみたちと会えるだろうね」

「クラト、きみも知っているように、僕はときどきここにくる。たぶんもう少し先になるだろうけど、この子たちをまたつれてくると思うよ」

僕たちはこうしてなごりを惜しみながらキアの隠者、老人クラトと別れた。
今、彼のことを深い親愛の情を持ってなつかしく思い出す。

あの、全くかざり気のないふるまいにはとても好感がもてた。オモテもウラも秘密もない人だった。彼のそばにいたときには、全然評価できなかったのに、あとになってから、ようやく、あの短い出会いでは簡単につかみきれなかった、彼独特の”次元”を理解することができるようになった。

ビンカは、さようならのあいさつとして老人の手にキッスをした。

彼の目に一瞬、涙が光ったように見えた。でも、そのつらい別れをさとられまいとしてだろう、クラトは最後の冗談を言った。

「お嬢さん、危険だよ。わしにそんなふうにキッスするなんて。わしのまわりには、いつも沢山の崇拝者が群れをなして取り巻いているんだ。おまけにとても嫉妬深い女ばかりでね・・・。だから、今お嬢さんの命はとても危険な状況にさらされているんだよ!」

僕はおろかにも周囲を見まわした。
でも、そこを取り巻いていたのは、深く悲しい孤独だけだった。

>>>「もどってきたアミ」第13章 カリブール星で双子の魂を知る

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