<< 「もどってきたアミ」第13章 カリブール星で双子の魂を知る
第14章 羊皮紙とふたつの可能性
円盤がまた、別のところに位置しているあいだ、僕はアミの手で書かれたクラトの羊皮紙の翻訳文を読みはじめた。
愛とは意識の繊細な一成分のことである。
それは存在の深い意味を教えてくれる。
愛は唯一の合法的な”麻薬”でもある。
間違って、愛が生み出すものを酒や麻薬の中にさがす人もいる。
愛は人生においてもっとも必要なものである。
賢者はその秘密を知っていて、ただ”愛”だけをさがした。
他の人はそれを知らないから”外”ばかりをさがした。
どうやったら愛が手に入るかって?
愛は物質でないから、どんな技術も役に立たない。
それは思考や理性の法には支配されていない。
思考や理性の法が愛にしたがっているのだ。
愛を手に入れるには、まず愛が感情ではなく、存在であるということを知ることだ。
愛とはなにものかであり、実在している、生きている精神である。
だから、我々の中で目ざめると我々に幸福を、そして全てのものをもたらすもの。
どうしたら愛がくるようにできるのか?
まず最初に存在していることを信じること(愛は見ることはできない。ただ、感じるだけだから)(それを神と呼ぶ人もいる)。
それができたら心の奥底にある住まい、つまりハートにさがすことだ。
それはすでに我々の中にいる。呼ぶ必要はない。
きてもらうように願うのではなく、ただ自由に出るようにさせてやること、人にそれを与えてやるようにすることだ。
愛とは、求めるものではなく、与えるものなのだ。
どうやったら愛が手に入るかって?
愛を与えることによって
愛することによって
「愛ってひとつの存在のことなんだね。それって、僕が今まで読んだどの本にも書いてなかった・・・」
アミは操縦桿を動かしながら笑って、
「いや書いてあるよ。ある本に」
「どの本?僕それ読んでないよ」
小さな宇宙人はおもしろがって言った。
「いや読んでる。読んでるどころか、それはきみが実際に書いた本だよ。あそこにちゃんと書いてある」
「エッ!『アミ小さな宇宙人』?」
「そう」
「よく思い出せないな・・・」
「じゃ、もういちど読み返してみることだね。
でも、本当にきみたちはおかしいと思うよ。誰かが目もあてられないような野蛮なことをしでかしたりすると、あの人は悪魔に取りつかれた、なんて言う。
ネガティブな力は、ひとつの存在のかたちだって想像できるのに、誰かが愛と共にいるとき、誰も神に取りつかれた、とは言わない。思いつきさえしない。そのことをちょっと考えてみたらいい。でもそれよりも、老人クラトのアドバイスを実践するほうがもっといいけどね」
ビンカが僕の横にきて言った。
「今の私にとって、それって、やさしいことよ」
「きみの愛をペドゥリートだけでなく、さらにもっとひろげていってほしいものだよ、ビンカ。キアの人々はきみを必要としているんだよ。
そうだ。きみがそこに戻る前にひとつ録画を見てみよう・・・」
「どうして、またキアへ行くの?」
ビンカはおどろいて聞いた。
「今キアに向かっているとは言っていない。でもそのときは、おそかれはやかれやってくるよ」
「じゃ・・・しかたないことなの?」
「ビンカ、きみはいつまでもここにいるわけにはいかない。自分の惑星にもどり、また本を書いて、人々に奉仕し続けるべきだ。ペドゥリート、きみも同じだ。さあ、その前にこれを見てみよう・・・」
窓の外に暗い灰色の世界があらわれた。全く興味がわかなかった。ビンカも同じだった。ただふたりで手をにぎって悲しい視線を交わし合っていた。
「もう、沢山だって・・・安物のメロドラマは」
アミは笑ってさけんだ。
「だって、別れなくっちゃならないんだもの、僕たち・・・」
「だとしてもどこに問題があるっていうの。いつまでも別れ別れでいるわけじゃないんだ。永遠に一緒になれる可能性があるっていうのに・・・いったいなにを言ってるんだい。さあ、これを見よう。ある世界が破滅してしまったときの録画だ!」
アミはなんとか興味をもたせようと、興奮したように言った。でも僕たちはとても悲しくて、それどころではなかった。アミは僕たちの様子を見て、映像のスイッチを切った。
「いいかい、進歩するということには、執着を乗りこえることを学ぶということもふくまれているんだ。だって精神はいつも自由を求めているからね」
「でも、僕たちは愛し合っているんだ・・・」
「本当の愛は執着とは違うんだよ。お互いに束縛し合ったりなんかしないんだ。本当に愛し合っている人は、いつも一緒にいる必要はない」
アミが本当のことを言っているのか、それとも冗談なのか全くわからなかった。でも、それは僕たちの悲しみを克服するのに役立った。
ふたたびスイッチが入れられた。窓ガラスに映像がうつりはじめた。
「これは救済計画に参加したこの世界の人々の全ての努力もむなしく、暴力と悪とを克服できなかった世界の実際の記録なんだ。見てごらん」
その惑星の大気は濃い灰色の雲の層にどっぷり覆われていた。沢山の空飛ぶ円盤が地上に向かって下降していった。
「今見ているのは”救出作業”だ。円盤が”700度”以上ある人たちをさがし出しているんだよ。本当に悲しいことだ。失敗してしまったんだ。全ての努力が全く水の泡となってしまったんだからね・・・」
地表はどこも激しく揺れ動いていた。海岸線にあった都市は、大津波で一掃されていた。映像はドキュメント映画のように淡々と荒涼とした風景をうつし出していった。
司令官が乗っていたのと同じ大型宇宙母艦があらわれた。
「数百万もの人を避難させなければならないからね・・・」
「数百万だって!」
僕はおどろいて言った。
「度数の高い人というのは思った以上に沢山いるんだよ。悪いように見える人でもその悪い行いは、たんに、不正に対する反逆にすぎない場合が多い。ただ間違った表現方法をとってしまっているんだ。
また別の場合、悪い機構、悪いシステムによって生み出された集団的な悪習とも言える。一般的に言って世の中の習慣や必要性が、悪い行いを強要している。だからこそ、我々の送っているメッセージをひろめることが重要になってくるんだ。
多くの人々がメッセージに耳をすまし、目ざめていくことで、今見ているような破滅への危険が少しでも減ってゆくんだ」
つぶさにうつし出される都市上空での円盤の作業。沢山の人々が輝く光を受け、空に向かって”浮上”していった。
おどろきと恐怖の表情を浮かべた顔もあったが、多くの人たちには安堵とよろこびの表情があらわれていた。
「どうして、こんなに暗いの?」
「何千もの核爆弾が破裂したところなんだ。直ぐに放射能の雨がふりはじめるよ。このあと惑星は人々が生きのびるには不可能なほど冷却するんだ」
ある円盤が山の上を通過した。下から一団のグループが合図を送っているが、その円盤は見むきもせずに通過していった。
「どうして、助けてあげないの?」
「彼らは十分な水準に達していないんだよ」
とアミが言った。
「ああ、”センソ・メトロ(感覚計)”で進歩度を測ったんだね・・・」
「いやこの場合、その必要はない。このグループの人たちは文明の危機に背を向けてきたんだ。みんなで協力して直面している問題を解決するかわりに、そこから逃げ出すことを選んだんだ。
ただ”自分たちだけ”の命の救済を求めた人たちは、今、その命を失う・・・別の人生の別のチャンスを待たなければならない・・・」
映像はアミの解説とともに数々の無残なシーンをうつし出していった。汚染されたちりの雲に覆われまっ黒になった世界。
揺れのおさまらない中で死んでゆく沢山の人々。山のように高い大津波が、海岸線を乗りこえて全てのものを破壊してゆく様子。
同時に何千もの円盤が、ほんの数百万の人だけを救出して、他の大多数の人たちを死の中に置き去りにしていくありさま・・・。僕たちには息がとまるほどの強いショックを与えた。
ビンカは泣いていた。
「もう全てがおしまいだとわかったとき、山にひきこもって自然に囲まれた生活を求めた人たちをこのまま見捨てていくなんて、あまりにもひどすぎると思うよ、アミ」
「そうじゃないんだよ、ペドゥリート。彼らはまだ救いの道が残っているときに、何もせずに逃げ出したんだ。彼らがもし、なにかをやっていたら、それだけでこの世界は自滅しないですんだかもしれないんだ。水がめの水があふれ出すには最後の一滴で十分なんだよ・・・」
アミにそう説明されたけれども、かわいそうなあの人たちを置き去りにするのは、なにか彼らに対する報復でもあるかのような気がした。
「そうじゃないんだ。ただ”よい種”の選択をしているんだよ。よい人たちだけによって、戸を開けはなしたままでも安心して眠れるような、自分のものを兄弟と同じように他人が自由に使ってもいいような、安全な社会をつくり出せるんだ。
今見ているような逃げ出した人たちというのは、残念なことだけど”よい種”ではないんだ。もし、仮に新しい世界に住むチャンスを与えられたとしても、彼らは人々に奉仕したり協力したりする行動はとらないよ。
本当に単純なことだけど、彼らには愛が不足しているんだ。実際に彼らは、そのエゴイズムによって逃げるという行為に走ってしまったんだよ。健康な生活とか、心身の浄化とか、精神の進歩とかいった名目にカモフラージュされたエゴイズムだ。
ちょうど自分の健康が第一だと言って、病気に感染するのを恐れて病院を逃げ出す医者のようなものだよ。もし、全ての医者がそうしたとしたら、かわいそうなのは病人たちのほうだよ」
アミの説明のおかげで、前よりもずっと状況が理解できるようになった。でも彼らの運命を考えただけで本当に胸の詰まる思いだった。
「こんなに沢山の犠牲者を出さないで、平和な世界を手に入れる方法はないの?アミ」
「とてもいい質問だ!ペドゥリート」
「どうして?」
「だって、それは可能だからさ。これから別の惑星の映像を見てみよう。ここに別の世界の記録がある」
アミはあらたにコントロールボタンを操作した。窓に新しい映像がうつった。今度は地球やキアにとてもよく似た世界だった。人々もさまざまな人種まで地球人にそっくりだった。
ある主要都市にある巨大な建物の入り口に、沢山の人々が集まっていた。
「今、きみたちは歴史的な瞬間に立ち会っている。たった今、この惑星の世界政府が成立したところなんだ。各国から選ばれた代表者は普通の政治家とは違うんだ・・・」
「じゃ、なんなの?」
「宇宙計画の奉仕者たちだよ。この世界では今、宇宙の法、神の法による統治がはじまったところなんだよ」
「素晴らしいわ!とっても」
ビンカはひどく感動して言った。
「このグループは宗教界や精神界において活動するグループをはじめ、生態学者や平和主義者から構成されている。彼らが、全ての文明世界で実践されている兄弟愛に基づく共同生活を提案したんだ。そして人々が彼らの言うことを信じることにしたんだよ・・・もう他には全く選択の道がなかったんでね・・・」
「どうして?」
「世界的な規模の経済恐慌があったんだよ。それと並行しておびただしい数の核実験や環境汚染、そして地下資源の過剰乱開発。生態系の不均衡が起きて、気候の異変が農産物を犯しはじめていた。
そして新しい伝染病やペスト、疫病、さらに世界各地で沢山の戦争があった。社会システムの対立が原因で引き起こされた戦争もあれば、国境をめぐる戦争、異なった宗教間の戦争もあった。全てのお金が戦争につぎ込まれ、飢餓や貧困、恐怖が世界中のいたるところに生み出されていた。人々はもううんざりしていたんだよ。そんな世の中にね。
そしてこの集団狂気をなんとか食い止める可能性のある道が、ひとつだけのこされた。そんなわけで、みんなの合意を得て平和的にそれをこころみることにしたんだよ」
窓ガラスを透していろいろなシーンがうつし出された。
「今ちょうど世界政府のあらたなる法が、執行されるところだよ」
全ての都市の何千、何万という人々が膨大な量の戦争兵器の前にいる。僕の惑星のある人たちにとっては、まさに誇りの対象である小銃、機関銃、大砲その他あらゆる破壊的な武器が山積みにされている。
「なにしているの?」
「全ての国、いや今となっては元・国、つまり世界政府の州の自治体が武器を別のものにかえているところなんだ」
大きな炎が金属を溶かしていた。港では戦艦を輸送船に、空港では戦闘機や爆撃機が旅客機に、戦車はトラクターにと、つくりかえられていた・・・。僕はそれを見ていて、アミから最初教わっていた預言者イザヤの言葉を思い出した。
聖書にあるその言葉をここに書いておこう。
・・・そして彼らは、その剣を鋤の刃に、その槍を、かまに打ち直し、人々は人々に向かって、剣を上げず、二度と戦いのことを習わない。(イザヤ書2章4節)
炎が金属を溶かしているあいだ、人々は感動にうち震えながらある歌を合唱していた。そして、多くの人々は熱い涙を流していた。まさに友愛と平和の象徴的な場面だった。
「これからよく注意して見ていてごらん。一番いいシーンだ」
とアミは僕たちに言った。
空に何千、何万という輝く飛行物体があらわれ、円を描いて炎のまわりを飛びはじめた。人々は感動とよろこびのあいさつを送っている。いくつかの円盤は下降し、搭乗員が円盤からおりて、破壊と暴力を永久に放棄したその惑星の人々と合流してよろこびを分かち合っている。
空からの訪問者が拡声器を通して地上の群衆に向けて話しはじめた。
「この惑星のみなさん、きょうの記念すべき行事は、宇宙からの建設的なインスピレーションの力を受けています。それはあなたがたのハートの一番素晴らしい部分に影響を与え、未来を救うための戦いを推進させました。
あなたがたは自分たちのエゴイズムや無知や不信や暴力を克服しました。これは”宇宙親交世界”に仲間入りできる証でもあります。
これからはもう未来に、あなたがたの前に、苦悩は待っていません。宇宙の調和と合致した、愛によって統治されるシステムづくりができるよう、豊かな科学や精神上の知識を全てあなたがたに提供しましょう。そうするために我々はきたのです・・・」
人々は幸せいっぱいの表情で抱き合ったり、驚嘆したり、円盤のほうに両手を大きくひろげたりしている。
そのあまりにも感動的な場面を前にして、ビンカは人目もはばからず、大声を出して泣きはじめた。
僕は胸につきあげてくる強い感動をなんとか抑え、アミにひとつの質問をした。
「どうして、ここにいる人たちは、空飛ぶ円盤の出現に全く恐怖心をいだいていないの?」
アミは笑って答えた。
「とても簡単なことだよ。前もって情報は知らされていたんだ、この惑星にいる我々の仲間によってね。
愛によって動いている全てのグループや団体は、我々の存在と援助のことを知っていて、人々が全ての武器を無くし統一を果たしたあかつきには、自分たちの兄弟にあたる宇宙人の円盤があらわれるという我々のメッセージを、預言として人々に説いていたんだよ。
そのおかげで、ここの人たちは世界主義的な意識をじょじょに受け入れつつあったんだ。だから、きみたちの使命というのは、とても重要なんだよ」
ビンカは目の前にくりひろげられていた兄弟愛的な光景に感動してさけんだ。
「私、あそこに行きたい!お願い、アミ、つれていって・・・」
アミはそれを聞いて笑って言った。
「僕に何を注文しているのかまるでわかっていないようだね。いいかい、この映像はずっと昔のことであって、この出来事が起きているときには、きみたちの世界では、まだ文字すら生まれていなかったんだよ」
「そんなこと、信じられないわ・・・」
「とにかく信じることだね」
「どうして、そんな昔の古い映像をうつしているの?それともこれ以後、助かった文明はひとつもないとでも言うの?」
アミの笑いから僕は、また自分が見当違いのことを言ったのだと直ぐにわかった。
「この映像を選んだのは、この人たちの姿が、きみたちにとてもよく似ているからなんだよ。そのほうがずっと身近に感じるだろうと思ってね。もし、その気になれば、同じような光景はこの銀河系に数千とあるし、どんな時代のものでも見せて上げることができるよ」
「とにかく、私、実際に行ってみたい。そして、数千年後にどんなふうに進歩したかということをたしかめてみたい」
「つれていってあげたいけど時間がない。今見た世界は現在、きみたちが行ったことのある文明世界にとてもよく似ているとだけ言っておこう。でも今ではもうたったひとつの人種しかいないんだよ。そして・・・」
「たったひとつの人種だって?でも、いろいろな人種の人がいるじゃない・・・」
「そう、でも時と共に混血し合って、ひとつになっているんだよ。だから、もう元々あったそれぞれの人種の原型っていうのは、全く存在していないんだ」
ビンカはちょっと悲しそうな顔をして言った。
「じゃ、今ここにうつっている人たちは・・・もうみな死んじゃったんだ・・・」
アミはそうじゃないと言わんばかりに明るい表情をして、
「とんでもない。今でもみんなピンピンしているよ」
僕たちはとても信じられないといった顔をして、説明を求めるようにアミを見た。
だってオフィルでは、六十歳くらいに見える男の人が本当は五百歳近い年齢だった。今、うつっている人たちは、オフィルで見た男の人よりもずっと若く見えるのに何千歳ということになる・・・。
「いちど、ある未開世界がそれを脱して”親交世界”に入ると、その人たちは永遠に生き続けられるんだよ・・・」
ビンカも僕も目と口を大きくあけたままだった。アミはそれを見てまた笑った。
「笑ってごめん。でも、きみたちの顔を見たら、ついおかしくてね・・・でも、当然だよね。とてもびっくりするだろうけど、これは本当のことなんだ。我々の科学と精神界における発見が、細胞の老化を食いとめることを可能にしたんだ。”親交世界”に入れば、その知識全てを受け取ることができるからね」
僕にはほとんど理解することができなかった。あのオフィルの男の人は五百歳だというのに、今ここにうつっている人よりも年をとっているように見えた。つまり細胞の老化が起こっていたわけだ。
「どうして、オフィルのあの男の人、若く見えなかったの?」
「それは、彼の身体がそれほど若くないからだよ・・・」
アミは少しいじわるげに答えた。
「それ、どういうこと?・・・.」
「全ての人が、永遠に自分の細胞が老化しないことを望んでいるわけではないんだ。なかには、他の人よりもはやく進歩する人もいる。そうなると今まで住んでいた世界が”小さく”なるんだ。もっと上の世界に行かなければならない。
それには今まで使っていた身体を返さなければならない。その身体のまま行くわけにはいかないから、古い身体がもう使えなくなるまで老化させる必要があるんだよ・・・」
「死ぬまで?」
「身体だけね。”親交世界”の人たちは、肉体からはなれても目ざめたままで、どうやったら意識を持続させることができるのかを、ちゃんと知っているんだ。
こうして、意識も記憶も失わない状態で、古い身体から新しい身体へと移るんだよ・・・永遠の命というのは、”親交世界”の文明にたどり着いた人たちにとっては、はっきりと保証されている事実なんだよ」
「保証されている?」
「うん、それにはきみたちの世界の”聖書”を正しく解釈できなければならないんだ。そこには永遠の命が約束されているだろう、ある人たちの・・・」
「じゃ・・・死はどういうことなの?….」
「死なんて、どこにも存在していない。神がそんなことを許すほど悪だと思っているの?ただ状態の変化があるだけで、魂は永遠なんだ。
未開文明の人たちは前世の記憶を維持したまま肉体が変わるということを許されていない。それが”死”という幻想を生み出すんだ。でも”文明世界”の人たちはみな過去の経験をはっきりと覚えているんだよ」
ビンカはうっとりとして聞いていた。
「じゃ、上の世界にはどうしても行かなくちゃならないね」
「そのとおりだよ。でも、繰り返すけど、それは自分で手に入れなくっちゃならないんだ。努力なしにはなにも手に入らないからね。アンブロキィータは種をまかなければ収機できない」
「なに?そのアンブロキィータって?」
「僕の惑星の、とても美味しい果物だよ・・・」
それを聞いて、僕はアミが前の旅で、僕を彼の惑星につれていってくれると言っていたのを思い出した。
「ところで、アミ・・・」
と僕が言いかけると、
「そうそう、ところでアミ、私をアミの家に招待してくれるって言ったでしょう?」
とビンカが言った。
「僕の家だって?」
アミは驚いたふりをして見せた。
「僕、そんなこと言わなかったよ。ただ両親を紹介するって言ったんだ。知っていると思うけど、文明世界に行っても、まだ円盤から出ることはできないからね。じつは、これから、まさに僕の惑星に向かうところなんだよ。銀河人形へね」
「銀河人形?それなぁに?」
「僕の住んでいる惑星のことだよ。直ぐに着くよ!」
「なんてかわいい名前なんでしょう」
とビンカ。
「少なくともきみたちの惑星の名前よりは開いた感じが綺麗だよね。だって、キアとか地球とかいうのはあまり詩的じゃないからね」
文明世界の名前って、みなロマンチックなのかどうか聞いてみた。
「ほとんど全てがね。なかには古い名を残しているのもあるけど。一般的にはたいてい詩的な名前を選んでつけるんだよ。世界や地方や山や川や沼や湖、道などにね」
「キアでは英雄の名をつけるのよ」
「英雄って、はっきり言えば軍人や戦士のことだろう?きみたちの世界は暴力的で好戦的だからね・・・。もしきみたちがもっと進歩していたとしたら、芸術家や神学者、師の名前をつけるだろう。そして、もっと進歩したら、もっと美しい名前をつけるようになるよ」
それを聞いたビンカはよろこんで、僕の横にきて言った。
「ねえ、ペドゥリート。この野原を一緒に散歩しましょう。”青い鳥通り”を通って”魔法の鏡広場”まで行って・・・」
ビンカは僕の手をとってうしろの空間へ僕をつれていった。とてもいい考えだと思ったけれど、どうもついていけなかった。
僕は小心だから、第三者がいると、いつも思っていることができなくなってしまうんだ。
「もし、しようと思っていることが他人のためになることなら、他人の意見なんてポケットにしまいこんでしまいなよ」
アミが操縦室から僕に言った。
「ペドゥリート、他人の言うことばかり気にせずに自分自身になれることを学ぶんだ。翼の着いたハートの意味をもっとよく理解するようにね」
ビンカはふたりの遊びに、アミがテレパシーで干渉してくるのを嫌がった。彼に向かってマイクロフォンでアナウンスするまねをして言った。
「搭乗員の方へ申し上げます。他のメンバーのプライバシーには、どうか干渉なさいませんようにお願いいたします」
「全くそのとおりだね。”文明世界”には、個人のプライバシーを軽視しているという罪がある」
アミが言った。
ビンカはそれを受けて冗談を言った。
「じゃアミ、どうして牢屋の中に入っていないの?」
「申しわけない。僕には他人が考えていることをキャッチできるという大きな欠陥がある。きみたちはとてもよい未開人だから、考えるときにものすごいボリュームの雑音を出す。ボリュームをいっぱいにあげたラジオの音を聞かないでいるというのは優しいことじゃないよ。
まだ、きみたちは自分の思考を鎮めるってことを学んでいない。もし、その方法を我々が知らなかったとしたら、どうなると思う?テレパシーが発達しているから、聞こえてくる不協和音だらけでもう耐えられない状態になるよ。だから、我々がきみたちの世界で仕事をするときは、その”雑音”が少ない場所を選んで、そこを経由するんだよ」
この話にはとても興味をそそられた。でもビンカは、僕とふたりだけで話をすることを望んでいた。彼女に悪いから、口に出さずに頭の中で話しかけるやり方でアミに聞いてみた。
“地球のどんなところが、思考の〈雑音〉の少ないところなの?”
「惑星という巨大な有機体の中では、より繊細な部分があるんだよ・・・」
“全ての場所がみな同じじゃないの?”
「髪の毛の細胞と脳細胞は同じじゃないだろう?それと同じように惑星にも特別なところがあるんだよ。その地点はエネルギーの放射が他の場所に比べてずっと繊細なんだ。そこに住んでいる人は”雑音”がより少ない。だから、我々にとっては、その地方を経由するほうが望ましいんだよ」
「もうこのへんで、私たちふたりだけで話をさせてくれたほうがずっと望ましいわよ」
とビンカが冗談とも本気ともわからない声で言った。
「わかった。わかった。でもなるべくきみたちの混乱した思考やコントロールを失った感動の”雑音”をたてないようにね」
“感動も雑音をたてるの?”
と、また頭の中で話しかけてみた。
「ネガティブな感動や、コントロールできない感動は、最悪の”雑音”の原因なんだよ。でもこのへんにしておこう。ビンカに円盤から追い出されてしまうとこまるからね」
と笑って続けた。
「きみたちの安っぽいメロドラマはそんなに長く続けられないよ。もう着いたからね。僕の惑星、銀河人形だ」
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