宇宙人アミ

「もどってきたアミ」第1章 疑いの気持ち

まえがき

誰かを好きだと感じることはあっても、その人を「真実の愛」、「心の友」、あるいは「自分のために宇宙が選んだ人」であるかどうかなど考えることなどなく、予言者、星占い、賢人の意見にたよったり、神々に答えを求めていませんか。

でも言っておきますが、神々にそんな質問をしたら、きっと墓石のごとく口にきっちり
ふたをすることでしょう。

もし誰かに「あの人こそがあなたの心の友」と言われたら、その場から逃げ去りましょう。なぜなら、誰が真実の愛なのかは、あなた自身の心にしかわからないことだからです。

だから、その人が真実の愛であるのか、うたがわしい人がいるとすれば・・・その人は絶対にちがいます。

なぜ、この世界ではA級の愛をさがすことが、こんなにも大変なのでしょう?この世界で愛の任務を支援するのに、あなたはどんなことをしていますか?

“宇宙に古くからある神秘、
どうして生命ってあるんだろう?
なぜ創造ってあったんだろう?

人々は必死になって頭で考え、その答えをさがそうとした。
でも見つからなかった。

どうしても見つからないので、理論をつくりあげた。
でも、古い神秘は、ただ愛によって、愛に照らされた意識によってのみ、啓示される。
子供のような素朴さと単純さという特権をとおして”

(キア星の住人、老人クラトの書いた羊皮紙の序文より)

アミの思い出

僕の名前はペドゥリート・X。本当の姓を明かさずに”謎めかして”Xと書いておく理由は、もうみんな知っているはずだ。

僕はまだ小学生の子供だ。だからもちろん独身。だけど、とても有名になった一冊の本を書いた。

『アミ小さな宇宙人』というその本は、正確に言えば、僕が話したことを、小説を書くのが趣味のいとこが筆記したものだ。

僕のいとこビクトルは銀行で働いていて、時間を見つけては僕の家にきて、小さなタイプライターを打った。こうして『アミ小さな宇宙人』は出来上がった。

ビクトルは僕のこの本のことを、子供向けの、たんなるバカげたおとぎ話だと思っている。

なぜ彼がこの仕事をひき受けたかというと、いつかそのうち”本当の本”、もっとずっと真面目な本を書くときの練習になるからだという。

彼が書こうとしていたのは、”知的欲求不満者の苦悶”とかいう、なんだかとても退屈でつまらなそうなものだった。

でもビクトルは、この星やUFOやそして愛を扱った僕の『アミ』が成功したもんだから、今度はさらに広い宇宙を舞台にした小説を書こうと考えている。

だから、僕がどうやって宇宙や宇宙人のことを想像したのか、とても知りたがっている。

僕はただ自分が見たものを話しただけであって、かってに想像したことじゃないといつも言っているのに、全く信じようとしないで、僕のことを、つくり話をでっち上げる名人だと言っている。

でも、僕が『アミ』の中で語ったことには、ひとかけらのつくり話もまじっていない。

アミは実在している。彼は宇宙のはるかかなたの遠い星からやってきた、僕の友だちなんだ。

彼とは、もう夏も終わりかけたある日の夕暮れどき、人気のないさびしい海岸で出会った。

彼は僕の考えていることを全部見抜くことができるし、カモメのように空を飛ぶことも、大人に催眠術をかけることだってできる。

小さくてとても十歳以上には見えないけれど、UFOの操縦はできるし、テレビよりもずっと複雑な機械を組み立てることもできる。

「自分のことを教師か使者のようなものだと言っていた。たぶん、本当は大人なんだと思うけれど、子供の身体と心を持っているのだろう。

彼は、僕を空飛ぶ円盤に乗せて、地球のいろんな国へほんの数秒でつれていってくれた。それから月にもつれていってくれた。

月はまるでかわいたチーズをルーペで拡大して見たような不毛なところで、太陽は出ていても空はまっ黒で、いつも夜だった。だから僕は月のことを全く好きになれなかった。

でも、アミは全てを楽しんでいた。ただ肉を食べることだけを除いて。彼はいつも動物たちがかわいそうだと言っていた。

そのあとで、アミは僕をオフィルという美しい惑星につれていってくれた。それは地球の太陽より400倍以上も大きくて、赤い太陽の近くに、本当にある惑星なんだ。

そこではお金というものが存在しない。みなそれぞれの良心にしたがって、必要なものを必要に応じて自由に持っていったり、与えたりしている。

嘘つきや不正を働く人が人りもいないから、警察もカギも鎖も鉄条網も鉄格子も壁もなにも必要じゃないし、めんどうな書類もない。

惑星全体がひとつの国で、みな兄弟だから、軍隊も戦争もない。もちろん地球のようにいくつもの宗教によって対立することもない。

神は愛であり、それが全てだ。みんな、いつも善いことをするよう心がけて、毎日少しでも進歩するように努力して生きている。

そして同時に、毎日をとても健康的にせいいっぱい楽しむことも忘れていない。そこでは全てが自由であり、人に強制したり、されたりということがいっさいない。

アミは、地球の人々も、オフィルの人々のように生きることができると言った。

そのためには、アミが教えてくれたこと、つまり、愛が宇宙の基本法であることを知る必要があり、全ての人がそれをきちんと理解できれば、その他のことはとても簡単なことだ。

でもそれをしないと、地球の自滅はもう避けられないことだと言っていた。

なぜなら科学の水準のほうが、愛の水準をはるかにうわまわってしまった文明というのは、自滅するのに必要な条件を全て満たしているから。

そしてそれが今、地球に起きていることなんだ。だって、僕たちは”文明人”じゃないからね。

アミは文明人と呼ばれるには、次の三つの基本的な条件を満たしていなければならないと言う。

一つ、愛が、宇宙の基本法であることを知ること。
二つ、国境によってバラバラに分裂している世界を、ただたったひとつの国に統一すること。
三つ、愛が、全ての世界機構の根本となっていること。

アミは、三つめの条件について、”家族”を例に出して認明してくれた。つまり、世界中どこででも家族はみな愛によって結ばれていて、仲よく与え合って生きている。

他の惑星の全ての文明世界の人々はそうやって生きているという。

そしてまた、文明世界が集団的に未開世界とかかわりをもつことは宇宙の法で禁止されていて、未開文明の進歩・発展のためには、あの神秘的な”救済計画”にのっとり、ほんのわずかに、それをほのめかすことぐらいしかできないということも教えてくれた。

アミは僕に、僕が彼と一緒に経験した全てのことを一冊の本に、それも本当のこととしてではなく、おとぎ話として書くように言った。

だから僕は彼の言ったとおり『アミ小さな宇宙人』の中で語ったことを全ておとぎ話だということにしたんだ。今、ここでそれをもういちどくりかえそうと思う。

そう、僕は決して宇宙人なんかと知り合いにならなかったし、もちろん進化した惑星に旅したこともない。これは全てみな、僕の勝手な空想であり、たんなるおとぎ話にしかすぎません・・・。

もし、多くの人々がアミの言っていることは本当のことで、自分たちが受信している宇宙からのテレパシーのメッセージと同じだと言っているとしたら、それはもちろんなにかの偶然です。

ペドゥリート・X

あっ、それから最後に、バラ色の世界へ行ったことを話さなければならない。そこには、もっとずうっと成長した未来の僕自身がいた。

そして、ずうっと昔から、長いあいだ、僕を待ち続けていた女の子がいた。明るい青い肌をして、日本人のような顔つきをしていた。

僕たちはお互いに、とても深く愛し合っているように感じたんだ。でも突然、全て消えてしまった。

これは僕が何度も生まれては死んで、生まれては死んでを繰り返した後の、ずっと先の別の人生のことだと、アミは教えてくれた。

でも、それは、ずいぶんと後になるまで、僕にはよく理解できなかった。

僕は、おばあちゃんとふたりきりで住んでいる。毎年、夏の終わりにバカンスで海へ行くけれど、去年の夏はお金がなくて行けなかった。

それはとても悲しいことだった。だって、僕が本を書いたら、アミはまた戻ってくるって言っていたから、海へ行けば、きっと海岸でまた彼に会えると思っていたからだ。

最初、僕は、この体験をみんなに話したくってしかたがなかった。でも、アミもビクトルも黙っているようにと、僕に忠告した。

そんなことを話したら、みんな、僕が気がふれた(実際、ビクトルは僕のことをそう考えている)と思うからって。

新学期がはじまると僕はそれを無視して、クラスの仲のいい友だちのひとりに、あの素晴らしい物語を話した。だけど、話がまだUFOのところまでいかないうちに、その友だちは突然、大笑いをしはじめた。

僕は慌てて、今の話はみんな冗談で、ちょっとからかってみただけなんだと言って、ごまかすしかなかった。

そんなわけで、またかろうじて以前のように、普通の子供でいられるというわけだ。だから、僕は、どうしても自分の正体をはっきりと明かすわけにはいかないんだ。

第1章 疑いの気持ち

遠く宇宙のかなた、地球よりはるかに進歩した文明をもつ星から、とても知能の直ぐれたノミがやってきて、地球の人間をテレパシーで操りウラン鉱石を地球からはこび出させる。僕のいとこは、こんな筋の、じつにバカバカしい小説を書こうとしていた。

僕にはあまりにもマンネリ化した退屈な、しかもとてもグロテスクなものに思えた。それを知って、彼は気分を害した。

彼は、僕とアミとの冒険がひょっとして夢じゃなかったのか、今までいちども疑ったことはなかったのかと聞いてきた。

僕は、最初全く相手にしなかった。でも、彼はしつこくなんども聞いてきて、夢ではなく現実であることの証拠を求めてきた。

僕は、アミがくれた宇宙の”クルミ”をおばあちゃんが食べたことを話した。そこで、ふたりしておばあちゃんにその事実をたしかめに行くことにした。

「おばあちゃん、ビクトルは本当にバカなんだよ。アミからもらった、”クルミ”のこと、みんな夢だなんて言うんだから。おばあちゃんからはっきり言ってあげて。ねえ、本当に”宇宙のクルミ”食べたよね?」

「なんのクルミだって?ペドゥリート」

「宇宙のクルミだよ、おばあちゃん」

「いったい、いつのことだい?」
と大きな口をあけて驚いたように言った。

これを聞いたビクトルは、僕をバカにしたように見ながら、勝ちほこったような笑みを浮かべた。

「一番最後に海に行ったときのことだよ。覚えているでしょう?ビクトルに話してあげてよ」

「ふたりとも知っているだろうけど、あたしゃ近ごろもの忘れがひどくてね。今日だってさいふをスーパーに忘れてきてね・・・。牛乳屋さんが集金にきたとき、家の中をそこいらじゅうさがしまわったけど、どこにも見あたらなくてね・・・」

「でも、おばあちゃん、宇宙のクルミ食べたのは覚えているでしょう?とっても美味しいって言ってたじゃない」

「・・・牛乳屋さんに、一緒に肉屋まで行ってもらったんだけどなくってね・・・。じゃスーパーだと思って行ったら、やっぱりそうだったよ。サトゥルニーノさん、とてもいい人だからね。ちゃんとあたしのさいふ、とっておいてくれてね・・・」

なんとか思い出してもらおうと何十回とこころみたけれども、おばあちゃんは全くなにも覚えていなかった。全く!

「ヘヘヘ――ッ!どうだい」
とビクトルは勝ちほこったように言った。

「証拠なんてなにもないじゃないか。あれはみんな夢だったんだろう?そう認めるんだね。とっても美しい話じゃないか。だから手伝ってあげたんだ。でもあれはたんなる空想、ファンタジーだよ」

僕はなにか別の証拠をさがそうと考えたけれど、悲しいことに、あのクルミ以外、アミは手にとってふれられるような、かたちある証拠はなにも残してくれなかった。

僕はしばらく考え続けた。すると、一瞬、頭の中に人筋の光がさしこんだように感じた。

「あった!」

「なにがあったんだい?」

「アミが帰ったとき、温泉場にいた沢山の人たちが”UFO”を目撃しているんだ」

これでやっと僕が正しいことが証明できると思った。にもかかわらず、ビクトルには動じる気配はみじんもなかった。

「たしかにあの日、なにかが空にあらわれたのは知っているよ。ハハーッ、ペドゥリート。あれからヒントを得てあの話をつくったんだな、そうだろう?」

「そんなことないよ。証人もいるんだしね」

「空には正体不明の光がゴマンとあらわれているんだ。誰もそれがなんなのかを、はっきりとは説明できないんだ。

大気中の光の屈折か、プラズマか飛行機か、空に突然あらわれた異様な光としか言いようがないね。でも、あれを空飛ぶ円盤に結びつけるとは、そうとうに話が飛躍していると思うよ。

おまけに宇宙人と話をしただの、あげくの果てに他の星に行ったとはね。冗談もいいかげんにしてもらいたいね。

たぶんおまえは将来、りっぱな空想作家になれると思うよ、ペドゥリート。でも、現実と空想をごっちゃにしてもらってはこまるんだ。気がふれたと思われて、病院に入れられちゃうよ・・・」

「でも、本当だよ。本当なんだ!」

「証拠は?」
と、いとこは強く要求してきた。

「みんな夢だったんだろうよ。きっと夢と現実をとりちがえているんだよ。よく考えてごらん・・・ペドゥリート」

彼の言うことなんか認めたくなかった。僕はビクトルに、疲れているから小説の続きは明日にしよう、と言ってその場は別れた。

でも、その夜、ひとりになってから、はじめてアミとのことを疑った。

もし、本当にビクトルの言うように全て夢だったのだとしたら?・・・。そんなことはありえない。・・・でも、いったい、どこに証拠があるっていうんだ?・・・。

その夜、僕は、あれこれ思いなやんでしまって眠れなくなり、なにか証拠をさがすために、また『アミ小さな宇宙人』を読み返してみた。

こんなに注意深く、すみずみまできちんと読んだのは、はじめてだったと思う。そして、一番最後のところへきて、ついに反論できる確かな証拠をつかんだ。あの海岸の岩に刻みこまれているハートのマークだ!そうだ!あれだ!

アミの着ていた白い服の胸のシンボルマーク。円にかこまれた翼のはえたハートのマーク、アミが後で、愛によって結ばれた人類という意味だと説明してくれたあのマークだ。まるで鋳造したように岩に刻まれていた。僕は何度もそれを見ている・・・それとも、あれも夢だったというのだろうか・・・???

確信がもてなかった。だって、僕のおばさんは細かいところまではっきりした、とても長くて、しかもちゃんと”ストーリーのある”夢”を見るって言っていた。まるでテレビの連続ドラマのように、翌日には前の夜のストーリーとちゃんとつながった夢を見るって。

アミと僕との出会いも、なにかそれと似たようなものだったのだろうか?・・・。
いや、そんなはずはない。夢じゃないということをはっきりさせる、唯一の方法は、「あの海岸にある岩のマークを確かめることだ。

もし、ハートがそこに本当にあったとしたら、アミのことも、その他のことも全て、まぎれもない事実だということが証明できる。

でももしも無かったとしたら・・・たんなる美しい夢、夢にすぎなかったということなのだ・・・。

翌日、僕はいとこに会ったとき、さっそくこう言った。
「ビクトル、証拠があるよ」

「なんだい?」

「僕とアミとの出会いは、本当のことだよ」

「どうして?」
いとこは、ほとんど真面目にとりあおうともせずに言った。

「海岸の岩に刻まれているハートのマークだよ」

「なに言ってんだよ。みんなつくり話だ!もういいかげんに忘れろよ。そんなことより、ペドゥリート、小説の続きをしようよ。ずっと考えていたんだけれど、知的なノミよりもサソリのほうがいいと思うんだ・・・」

「その前に海へ行こうよ、ビクトル。新車を買ったばかりなんだし・・・」

「バカなことを言うな!ここから海まで百キロ以上もあるんだぞ。忙しくってそんな暇なんかないよ。それに夢見がちな子供のつくり話なんかに、いちいちつき合っちゃいられないよ」

「そんなこと言って・・・。でも、小説を書くことには興味があるんだろ?」

「生意気だぞ、それとこれとは別問題だ。俺は自分の小説の練習のために、おまえのつくり話を書くのに協力しただけさ。でもものごとを一緒くたになんかしていないよ。おまえのは全てフィクション。想像の産物、つくり話だよ」

「本当のことだ!」
僕は思わずさけんでいた。

ビクトルは僕を非難するような目つきで見てから、こう言った。
「本当におまえの頭、大丈夫か?俺は心底心配になってきたよ、ペドゥリート」

彼の僕をいたわるような、保護者みたいな声は、僕を不安にさせた。ひょっとして、本当に僕は気がふれているのではないか、そう思ったら恐ろしさでいっぱいになった。だからこそ、一刻も早く、この疑いに終止符を打ちたかった。

「ビクトル、じゃ、こうしよう。これから海岸へ行って、もしハートがなかったとしたら、全て夢なんだから、僕はもうこれ以上、この件に関してなにも言わないよ。でも、もし本当にあったとしたら・・・」

「おまえも、しつこいヤツだなあ。わかったよ。そんなに行きたいなら、今年の夏につれていってやるよ」

「今年の夏だって?まだ六カ月も先のことじゃないか!」

「我慢しろよ。夏になったら、はっきりさせてやるよ。だから今は、この小説を続けよう。えーと・・・テレパシーの能力があるサソリがだ・・・」

僕は、冷たくて、ぶ厚い残酷な壁につきあたったような気がした。カーッと頭に血がのぼった。

「わかったよ。じゃ、僕ひとりで行ってやる。ひとりで家をとび出して、なんとか海までたどりついてやる!僕はそんなバカバカしいサソリなんかに興味はないよ!もうこれ以上、絶対に小説の手伝いなんかしないから!」

「おお、なんだか、きょうは日が悪い。もう帰ったほうがよさそうだ」
ビクトルは、僕の興奮した様子を見て言った。

「あす、また寄ってみるよ。じゃ、おやすみ」
と、帰っていった。

「もうこなくていいよ!」
僕は彼の背中に向かってさけんだ。

それから、自分のへやに閉じこもり、ベッドの上に横たわった。涙があふれ出す寸前だった。正直言ってちょっとだけ泣いた。ほんのちょっとだけ・・・。でも男は泣いちゃいけないんだ。

その夜、僕は誰かにぐちったり、めめしく泣いたり、悲観して投げやりになったりするかわりに、別のことをした。僕は、暗闇の中で目を閉じて、1時間以上も、海岸にたどり着いた自分の姿を、頭の中で想像し続けた。

その翌日の午後、ビクトルが口笛を吹きながらあらわれた。

「はじめようぜ!」
全く何事も無かったかのように言った。

僕は、ちょっと距離をおいて、冷たく言った。

「ビクトル、悪いけど僕は今日、やらなくちゃならないことが沢山あってね」
と地理の教科書を開いて勉強するふりをした。

「ああ、そう。でもほんの一時間でいいよ。いいアイデアが浮かんだんだ。テレパシーのサソリと善玉オフィル人との戦いだよ・・・」

「僕は全身の血が煮えたぎったように腹が立った。もう爆発寸前だったが、かろうじて自分を抑え、なんとか平静さをよそおった。

「ムリだよ。じゃまたね」

「ふーん・・・。昨日のこと、まだ怒っているな」

「ステップとは平らな荒地がひろがった地帯で・・・荒地、荒地が・・・」

「ふーん・・・。わかったよ。じつはずっと考えていたんだ。海岸で少し休養するのも悪くないだろうってね・・・」

「エッ」
突然、希望の光が差し込んだような気がして、僕はその日はじめて彼の顔を見た。

「金曜日の午後に行こう。テントやキャンプ道具一式持ってね。ついでに海岸の岩にハートのマークが無いことを確かめることもできるしね。でも、そんなに怒っているんじゃしかたがないな・・・」

「怒っているって?なに言っているの。僕怒ってなんかいないよ!」
僕は幸せいっぱいな気分で言った。

「でも、ビクトル。どうして、そんなに急に意見が180度も変わったの?」

「変わったって?なーに、ゆうべ、1時間ほどおまえを海につれていってやるかどうか考えてたら、眠れなくなっちゃったんだ。

最後にそうしようと決心したら、やっと眠りにつけたんだよ。少し気分転換が必要かもしれないしね。それにいつか、おまえが本当に怒って、俺の本が・・・いやおまえの本を俺が手伝えなくなるとね・・・」

そんなわけで、よくわからないけど、とにかく、僕たちは、金曜日の午後、荷造りをして、ビクトルの新車に乗りこみ、2時間ほどかけて、海岸まで行った。

幸せに満ちた気分で、爽快な潮風を身体いっぱいに吸いこんだ。アミと行った宇宙への旅が、つい昨日のことのように思い出された。

車から降りて、例の岩のほうを眺めた。海岸の上空に停止している小さな宇宙人のUFOが見えるような気がした・・・。

>>>「もどってきたアミ」第2章 岩の上にある(?)ハートのマーク

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