宇宙人アミ

「もどってきたアミ」第4章 宇宙のダンス

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第4章 宇宙のダンス

円盤が軽く振動した。
強烈な黄色い光が操縦室の中をいっぱいに満たした。

光は黄色からバラ色へ、さらに紫色へと変わり、明るい水色になった。最後に目のくらむような白色光になったかと思うと、突然パッと消えた。そして、たえず変化し続ける外からの美しい反射光だけが、内部を照らしていた。

「窓の外を見てごらん」

僕たちは立ちあがって窓べに近づいた。外の光景は、鳥はだが立つほど素晴らしかった。さまざまな色の光を放つずばぬけて大きい星の大集団が、天空いっぱい螺旋状にばらまかれていた。

その一つひとつの光の断片が、ゆっくりと動きながら遠のいていった。それは七色の光を放つ煙の渦巻きのようだった。恒星、彗星、惑星・・・、色とりどりの雲はまるで綿菓子のようにも、燃えているガスのようにも見えた。

そして、まぶしい光の線が長くのびると、渦を描きながら天空に吸いこまれるように消えていくのが見えた。

巨大な螺旋状のものが、まるで生きているかのようにどんどん大きくなってゆき、その中に点在する光が花火のようにパッと炸裂しては散って消えていった。

「我々は今、銀河系、天の川の動きを見ているんだ。これからその動きが放つひとつひとつの小片の音を聞いてみよう」

アミは操縦桿のボタンを押した。円盤の内部はちょっと言葉では説明できないような音でいっぱいになった。高音と低音が混じり合うブンブンと唸るような音や口笛のような音、そして激しい雷鳴がそれに続いた。稲妻のような閃光は竪琴の音色を思わせた。

そして、最後には、それぞれの音が感動的なハーモニーを奏で、まるでコンサートをくり広げているようになった。

「銀河系はこんなふうに聞こえるんだよ。じゃ、今度はスピードアップしてみよう」

アミはゆっくりとボタンを押した。星の大集団がすごい速さで動き出した。と同時に、どんどん広がってゆく。

僕には、銀河系全体が、はっきりした意識を持ったひとつの生命体のように感じられてきた。それはまるで光り輝く巨大なヒトデが、自分の奏でる音楽に合わせて、そのキラキラ光る触手を宇宙の四方に広げて踊っているかのようだった。

そうか。こうして動きをはやくして見ていくと、コンサートもダンスもちゃんとハーモニーやメロディーやリズムを持っているんだということが、はっきりとわかった・・・。

「なんて美しいの!神って!」
ビンカが感動してさけんだ

数滴の涙が彼女の美しい瞳をぬらし、銀河系の放つ色とりどりの光や、火花をちらしてキラキラ輝く星々の光が、その瞳に反射して、彼女をいっそう美しく見せていた・・・。

アミはうやうやしく言った。
「今、我々は神の視点にかなり近いところにいる。でも、神は、我々のようにたんに外からながめるのではなく、同時に全ての銀河系を踊りながら楽しんでいる。神自身が何百万、何千万もの星雲に変化して、さらに、一つひとつの内部からながめているんだ。

巨大な銀河系から、我々やもっとずっと小さなものにまで。愛によって、その素晴らしい精神を彼の全ての創造物と一緒に分かち合っているんだ」

あまりにも信じがたい光景を前にして、すっかり感動したビンカは、突然ワッと泣きはじめた。僕も泣き出す寸前だった。彼女をなぐさめてやりたかった。

僕は彼女の肩に手をかけ、そっと抱いた。彼女は頭を僕の肩にもたせかけてきた。とてもデリケートな素敵な臭いがした。僕は、彼女の黄色いかわいい蝶のリボンをつけた、やわらかい髪の毛をなでた・・・。

「今日はもうこれで十分だ。このへんにしておこう」
とアミが中断した。

「なにごとも度をこすのはよくない。たとえ、美しいものについてでもね。さあ、おいで」

アミは僕たちの腕を軽くつかんで、彼の隣りの席へ導いた。僕はビンカを離したくなかった・・・。いったいどうしたっていうんだろう。

イスに座ると、ふたたび強い光が室内を照らし出した。はたして、アミはこれ以上僕がおどろき感動するようなものを見せてくれるつもりなのだろうか。きっと、あんなすごいものを見せられたあとでは、どんなものもしらじらと色褪せて見えるにちがいない。

「心に愛があれば、そんなことはないよ。外を見てごらん」
とアミが言った。

僕たちは、また温泉場の上にいた。全てが前と変わりなかった。岩、テント、月、光・・・僕は少しがっかりした。

「銀河系の遠くの果てまで行って、戻ってきたところといったら、また元のところだ・・・僕はもっと遠い星に行きたかったんだ・・・」

アミは笑って、
「どこにも行ってなかったんだよ、最初から。ずっとここにいたんだ」

「でも僕、外から銀河系を見たよ!」

「コンピューター化した映像で数兆年の動きを数分にちぢめて見ていたんだよ。ちょうど高速で早送りするビデオを見るようにね」

「でも星はちゃんとあそこにあったよ!窓の外に」

「我々の円盤の窓はスクリーンの役目もするんだよ。映画と同じようなものだけど、それよりずっとリアルに立体的に見えるんだ。きみたちはこの映像と現実とを区別することができないんだ。見てごらん」
と言ってアミは計器盤を操作した。

直ぐに、窓の外の光景が変わり、夜から昼になった。太陽が近くの海に沈もうとしている。森林がうつった。以前、見たことのあるところだ。

「ペドゥリート、よく見てごらん」

木々のあいだからひとりの男の姿があらわれた。

「あ!あの狩人だ!」
僕はおどろいて言った。

前回の旅のとき、僕らは銀河系のまん中にある”スーパーコンピューター”の指示にしたがって、”目撃証拠”を残すためにアラスカへ行った。”スーパーコンピューター”とは全ての円盤の操作に干渉しているものだ。

そして、あのとき、この男はUF0を目撃し、おどろいて銃を僕たちのほうに向けた。今もそのときと全く同じことが起こっていた。

「これは録画なんだよ。全て円盤の窓にうつった光景は録画されるようになっている。それも全く現実と同じ鮮明さで、いつでも好きなときに見ることができるんだ」

僕にはそれが録画した映像だったなんてとても信じられなかった。木々も、あの男も、空もみんな全てそこにあった。それなのに実際は、もうほとんど2年も前のことだったとは・・・。

男が僕たちに銃を向けたとき、僕は思わず前のときと同じように身をふせそうになったけれど、なんとか自分をおさえることができた。

でもビンカときたら、本当にビックリしてイスのうしろに逃げて身を隠した。アミも僕も大笑いしてしまった。

「ビンカ、これは録画だよ。ほら、見ていてごらん」

アミはスイッチを切りかえた。また夜の海岸がうつった。それからまた直ぐにアラスカに戻った。今度は、あの狩人はまだ僕たちに気がつかないで山道をなにげなく歩いていた。突然僕たちを見つけ、攻撃しようとした。

「今度は巻き戻してみよう」

男が前を向いたまま後ろのほうに歩きはじめた・・・。

「ビンカ、おいで。見てごらん。とてもおもしろいよ。まるで喜劇みたいだ」

彼女は、アミが映像の中の狩人と遊んでいるのを見にきた。

「アミ、録画と現実とはどうやって区別できるの?」
と、僕は聞いた。

「生きているものはみなエネルギーを発しているから、さっき説明した感覚によってそれを感じ取ることができるんだよ。でも録画はそうじゃないんだ」

また海岸に戻った。でも、今度はまだ夜になっていない。

「よく見てごらん」
アミが言った。なんと、そこに僕自身がいた!ビクトルの車を降りたときの僕の幸せな気分が、その表情からはっきりとうかがえた。

とても驚いたのは、そこにいる僕が、この僕自身を、つまりUFOのほうを一瞬見たことだ。あのとき、僕にはなにも見えなかったのに・・・。

「いや、見えたんだよ。その発達しつつある感覚によってね。その内的な力の前には、我々の視覚不可能な状態というのも、全く意味をなさないんだ・・・」

アミはまた、銀河系のダンスをうつしはじめた。

「我々だって小さな能力を持っているんだ。想像してごらん、今見ている素晴らしい存在がもっているものを・・・」

ビンカは頭が混乱しているようだった。
「銀河系は生きものじゃないわ」

「じゃ、なんなの?」
アミが笑って聞いた。

「沢山の星が集まったもの。でも命はないの」

「命がない?命がないだって!」
とアミは、まるで度肝をぬかれたように二度くりかえしてさけんだ。

「いいかい、もしきみの肝臓の一細胞がそこから抜け出ることができ、きみに会ったとする、彼らの時間の尺度のほんの一瞬においてね。そうしたらきみのことを、核も細胞膜も持たない奇妙で不活発なかたまりだと言うだろうよ。わかる?」

「うん、たぶん・・・。それで?」

「つまり、銀河系全体はひとつの大きな生命体であって、我々は、そのきわめて小さなミクロ的な部分だということなんだよ。だから当然、銀河系は我々よりも限りなく高い意識を持っていて、はるかにインテリな存在なんだよ」

「インテリだって?」
ずいぶん、へんな話だと思った。

「ペドゥリート。もしきみの身体のある細胞が、きみの右手の小指の爪の一細胞に向かって、ペドゥリートのことをインテリだと言ったら、そう言われた小指の爪の一細胞も、今のきみと同じぐらい驚くだろうよ。

気の毒にもたんに死んだかたまりでしかないきみは、宇宙の中でもっとも重要な創造物だと思いこんでいる小指の爪の、一細胞に生命を与えるためだけに生きている存在でしかない、とね」

僕にはそのアミの説明が、なんだかよくわからなかったけれど、アミにつられて笑ってしまった。

たぶん、人間が自分のことを宇宙で一番重要な創造物であると思いこんでいるように、小指の爪の細胞だって同じことを考えているよ、といった意味なんだろう。

アミはビンカにオフィルへの旅の録画を見せはじめた。オフィル人が自分のイメージしたものをスクリーンに投影している場面にきたとき、彼女は感嘆して言った。

「アミ、あなたたちの科学の水準や知識って、本当に素晴らしいのね・・・」

「きみたちの世界と比べれば、たしかにそのとおりだよ。でも重要なのはそれよりも精神の水準だ。それが一番大切なものであって、それ以外のものはたんに手段であって目的じゃないんだよ。

つまり、科学は人々のよろこびのために使うものなんだ。最高の幸せっていうのは精神的なものなんだよ。

例えば社会的成功とか、金銭とか、物質を手に入れることができたとしても、精神的なものに対して全く無知で、そしてハートに愛がないとしたら、その人の人生は物乞いをしている人よりもはるかにみじめだよ」

「どうして?」

「どうしてって、愛が幸福の泉だからさ」

「そのとおりよ、アミ」
と言ってビンカは、僕をちょっと見てから、はずかしそうにうつむいた。

アミは状況を直ぐに察して笑い出した。

「ロマンスについてだけ言っているんじゃないんだ。愛の気持ちを持って生きること、命を与えてくれた創造者に感謝し愛すること、人生や自然や呼吸している空気を愛することについて言っているんだよ。人生のさまざまなことを愛することだよ」

アミがそう言ったとき、僕は心の底から同感した。彼の言葉の意味が、はっきりと僕の心にしみこんだ。

「愛の贈りものを手にしているときには、たとえ物質的な富が少なくても、いつも幸福なんだよ。もし愛だけ求めたとするなら、そのうえに、他のものも手に入れることができるだろう。
でも物質的な富だけを求めようとしたら、たとえ求めたものを手に入れたとしても、幸福は決して得られないよ。だって、幸福とは愛の果実なんだからね」

ビンカはアミの言葉の意味がよくわかっているようだった。

「幸福は愛によってのみ手に入れることができるんだわ」

「そのとおりだ、ビンカ。幸福は愛の力で勝ち取るんだよ」
アミはよろこんで言った。

「じゃ、愛は?愛はどうやったら手に入るの?」
と僕は質問した。

「いい質問だ、ペドゥリート。ビンカ、その答えを知っている?どうやったら愛を手に入れられるのか?」

「たぶん、物質的なものじゃないとは思うけど・・・」

「そのとおり。これからきみたちにとても興味深い人を紹介するよ。ビンカ、きみの惑星キアに住んでいる人だ。その人が、どうやったら愛を手に入れられるか、というその質問に答えてくれるよ」

「うわー!」
僕は感動して言った。

でも、正直言って僕には、愛を手に入れる方法を知ることよりも、別の星をたずねられることのほうが、ずっとワクワクすることだった・・・そう思ったら、ひとつの疑問がわいてきた。

「アミ、でもこれから見に行くのが、現実のことなのかそれとも録画なのか、どうしたら僕に区別できるの?ひょっとして僕がオフィルで見たものも全て録画だったんじゃないの?」

「本当にいつもあふれるような信頼感だね、ペドゥリート」
とアミは皮肉めかして言った。

僕は少し恥ずかしくなって言った。
「だって・・・」

「信頼することを学ぶことだ。オフィルで見たことも、これから見ることも、全て現実だよ。僕を信じることだね。僕は、ふだん、嘘はつかないよ」

「絶対に?」
ビンカは、はっきりとした答えがほしかった。

アミはひと言では簡単に答えられないので、もっとわかりやすい説明の仕方を探した。

「ウ~ン、例えば・・・いつも闇の中にいる人に、沢山の光を見せるのは、決してよいことじゃない・・・。目がくらんでしまって、まぶしくて何も見えなくなってしまうからね。

また、反対にいつも光の中にいる人に極度の闇を見せるのもよくないことだ。死ぬほどショックを受けるからね」

ビンカも僕も、言っている意味がよくわからない、とアミに言った。

「過度の闇と光はものを見るさまたげになるということさ。ときには、小さな子供にコウノトリの話をするのも悪くはないんだ・・・」

「コウノトリってなに?」
とビンカが聞いた。

「ルティースから赤んぼうを運んでくる烏だよ。キアの言い伝えの・・・」

「でも、それは子供だましのお話よ・・・」

「もっと大きくなったら、本当のことを話してあげられるよ。でもそれは子供が適当な年齢になってから、はじめてはっきりと説明すべきことなんだ」

この機会に、そのあたりの疑問をはっきりさせたいと思った。
「そのことを今、教えてよ。頭の中がなんだか混乱していて、はっきりわからないんだ」

「私も知りたいわ」
とビンカも大きな声をあげた。

アミは僕たちふたりを見て涙が出るほど笑った後で言った。
「ものごとには全て、それにふさわしい時機や年齢というものがある。代数を理解するにはまず、足し算、引き算を覚えなくちゃね」

ビンカは、少々不満げに抗議して言った。
「私たち、足し算も引き算も知っているわよ」

アミは、ますますおかしそうに笑って、
「その足し算、引き算のことを言っているんじゃないんだよ」

アミは、視線を上にそらして、何かいい例はないかと考えはじめた。

「じゃ、これはどうだろう。多次元における反動の螺旋理論を理解するには、その前に相対性理論をきちんと理解する必要がある」
とアミは、本当だか嘘だかわからない、難しいことを、笑いながら言った。

「それを理解するのに、どのあたりのレベルにいる?きみたちは?」
ビンカも僕も全くチンプンカンプンで、ただ、ポカーンと口をあけたまま、お互いに顔を見合わせた。そして思わずふたりとも吹き出してしまった。

>>>「もどってきたアミ」第5章 気づかない本質的な欠点

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