第6章 ペドゥリートとビンカの使命
僕もビンカも生まれた惑星の出身ではなかった、というこのアミの重大発言のあと、僕たちのおどろきがいったんおさまると、アミはふたたび説明をはじめた。
「近い将来、きみたちの惑星には、いくつもの大変なことが起こりはじめるよ・・・」
「大変なことって、どんなこと?」
「地質や気象・生物界の大きな変化、そして大異変や疫病、さらに数百万の人たちが感染して苦しむ新しい病気が生まれる。ある程度の内的純潔さをた持っていれば大丈夫だけれど・・・」
「いったいなにが原因で起こるの?」
と目を大きく見開いたビンカ。
「ふたつの要因があるんだ。まず第一は科学が自然破壊を引き起こす方向に使われていて、それがとても大きな不均衡を生み出していることなんだ。
さらには人々の発するマイナスの脳波。これがきみたちの周囲を取りまく心理的エネルギー層にとても危険な状態で蓄積され、地球やキアの住民たちに深刻な影響を与えている。
第二の要因は、直接人々には関係していないことで、きみたちの惑星の自然な進化・発展によるものだ」
ビンカはこのテーマにはほとんど興味がないようだった。
「で、アミ、私はどこの文明世界からきたの?」
「少しずついこう。まずビンカ、きみの最初の質問だけどね、いいかい。
本来、自然に進んでいくべき惑星の変化の過程というものが、人々のいだく邪悪な感情・思想や行為が原因となって、とてもせわしなく、はやめられているんだよ。
人々が宇宙の調和に根ざした生き方をはじめない限り、ゆっくりと自然に進むべきこの変化は、非常に暴力的に、破壊的になっていくよ。それでもまだまだ、沢山のことができるよ。人命が失われるのを最小限にくいとめ、全滅をさけるためにね・・・」
「それは世界のおわり・・・ということ?」
「あるいは始まりかもしれない。それはきみたち次第だよ。この最後の試練を乗り越えられなければ、このまま変わらなければ、それは終末を意味してくる。自滅ということだ。でも、全て神の望むように生きるようになれば、それは本当の天国の始まりになるよ」
「あなたがたの力を持ってすれば、キアや地球を自滅させないことくらい、なんでもないことでしょうに」
ビンカは、アミをやや非難するような口調で言った。
アミはいつものように陽気に答えた。
「前にも言ったように、未開の文明に集団で公に干渉することは宇宙の法で禁止されている。それは絶対に守らなければならない。例えば、きみたちの学校の上級生が、もしきみたちのかわりに試験を受けてくれるとしたらどう思う?」|
「うわぁ!そうしたら、なにも勉強しなくともよい点数がもらえて・・・」
そりゃすごいと思ったので、大よろこびで言った。
「そんなのインチキよ」
とビンカは僕をとがめるように言った。
アミは続けた。
「もし上の学年に進級できたとしても、きみたちは授業の内容を全く理解できないだろう。そうしたら同級生だけでなく、学校全体のじゃま者になるだろう。・・・そして同時に、正々堂々と自分自身の努力で勝ち得たんだというプライドも全く感じられないだろう・・・」
「そのとおりだ、アミ」
と僕は、少し反省しながら言った。
「本当だわ。もしあなたがたが、私たちのためにみんなやってしまったら、それはよくないことだわ」
ビンカも言った。
「だからといって、なにもせず手をこまねいているのもよくないことだよ。絶壁に向かって走っている子供を、なにもしないで見ているわけにはいかないだろう。
仮にその子を取り押さえることは許されないとしても、そっちに行っちゃあぶないという警告を発することはできる。そこにきみたちの使命があるんだよ」
「それどういうこと、よくわかんない・・・」
と僕は言った。
「私はよくわかったわ」
とビンカが言った。
「じゃ、説明してよ、ビンカ」
「自分の惑星が自滅しないよう手助けするために、私たちは未開世界に生まれ変わったんだわ」
「そのとおりだ!どうしてわかったの?ビンカ」
アミはさけんだ。
「私、どうしてだかよくわかんない・・・」
「それは、さっき話した感覚のおかげなんだよ。予感がしたんだ。二、三のことさえわかれば、あとはもうはっきりしちゃうのさ」
「じゃ、私は、どこの世界からきたの?」
ビンカは、なおもしつこく聞いた。
「それはどうでもいいことなんだよ。過去に戻るのはなんの意味もないからね。大切なのはつねに現在だよ」
「でも、私の本当の惑星、私が住んでいた本当の場所が知りたいわ」
「愛が我々に存在の意味を啓示したときには、全ての宇宙が我々の住まいとなる。全ての人たちがみな、我々の兄弟だ。きみたちには自分たちの惑星が平和に近づくための変革の一端をになうという使命が与えられている。
きみたちの世界を文明化し人間的なものにするため、戦争や生存競争や不正や分裂の場から、平和で愛に満ちた場所へ、宇宙の他の文明世界のように生まれ変われるようにするためのね」
ビンカの視線に暗いかげりが走った。
「でもテリのことを考えると、キアでは、そんなこと不可能だと思うわ」
「そのテリってなーに?」
と僕が聞くと、
「キアに住んでいる人たちだよ。キアにはふたつの人種がいるんだ。ひとつは彼女の属しているスワマ。もうひとつがテリだ。テリはさらにテリ・ワコとテリ・スンボのふたつに分裂していて、いつも戦争をくりかえしている、かなり好戦的な人々なんだ」
とアミが説明してくれた。
「あんなの人間じゃないわ!」
ビンカは見るからに興奮してさけんだ。
「サルよ!インテリなサルなのよ!」
「インテリなサルだって!どうしてサルがインテリなの?」
「とても知的だけど悪がしこくて、善意なんて微塵もなく、嘘つきでひねくれ者で、そのうえ恥知らずの不道徳で、物質第一主義の罪人だわ」
ビンカはとても怒って言った。
アミは笑い出して、
「ずいぶん、いろいろと並べあげたものだね。きみの兄弟をそんなに悪く言う前に、理解するよう努めなくちゃ。全てのテリがきみの言うような人ばかりじゃないよ。中には700度以上の度数を持っている人もいるんだからね」
アミの言う度数とは進歩度のことで、彼の持っている”センソ・メトロ(感覚計)”いう機械で、動物や人の進歩度をはかることができるとアミは前の旅で教えてくれた。
もし万が一、取り返しのつかない事態におちいった場合、700度以上ある人は、文明世界に住む資格が十分にあるとして、宇宙人に救出されると言うのだ。
あのとき、アミは、僕が自分の度数を知りたがっても、度数が低ければイヤな気持ちになるし、反対に高ければうぬぼれてしまい、僕のエゴが広がり度数が下がってしまうからと言って、僕にそれを絶対に教えてくれなかった。
テリの”度数”についてはほとんど関心がなかった。それより僕の”度数”のほうが知りたかった。なんとかもう少しさぐりを入れてみようとした。
「じゃ、ビンカも僕もかなりの”度数”を持っているというわけだね・・・」
「どうして?ペドゥリート」
「だって、文明世界からきたんだからね・・・」
「地球にも僕より高い”度数”を持っている人がかなりいるって、前に言ったろう?
彼らと僕の違いといったら、彼らが知らないことを僕は知っているということと、僕が最高に望ましい環境と適正な情報の中で教育されたということだ。
でも彼らの魂の水準は、多くの場合かなり高い。でもみな必ずしも、文明世界から戻ってきたというわけではない。きみたちのようないわゆる伝道師は、前の人生で愛に対してなにかしらのあやまち、なんらかの過失を犯しているんだ。
でも、そのあやまちは奉仕することによってつぐなわれる。その仕事の選択はきみたちの自由な意思によってなされたものなんだよ」
「どんなあやまちを犯したの?」
僕たちは、同時に同じ質問をした。
「それはもうたいした問題じゃないんだ。自分や他人が過去に犯したあやまちは、決して詮索すべきではない。もしきみたちが、努力して自分たちの交わした約束を果たしたならば、そのときには、きみたちは綺麗な、輝いた身となる。
そうしたら兄弟愛と善意に満ちた、元の世界に戻ることができるよ。今のきみたちの世界が消滅しないように、より進歩した世界づくりのために尽くすという使命が終わったらね」
「地球にはテリはいない。それでも、不可能に近い仕事のように感じるよ。どうやったら僕たちに何かできるの?」
「思っているほど、難しいことじゃないよ。第一に、もう直ぐ起こることがきみたちを助けることになるよ。多くの人たちがこのまま進んでいってはダメだということを理解するようになるからね。
第二に、大多数の人々が全ての面で、よい方向に大きく変わるように願っているということがある。ただその方向づけが必要なんだ。
そして第三に、まさにそのためにきみたちのような伝道師が、何千、何万といるんだよ」
「何千、何万だって!」
「まさに、”宇宙人の侵略”だよ。平和を目的としたね。たいてい、必ずひとりはいるんだよ、どんなところにでも。ほとんどの会社や新聞社、ラジオ・テレビ局、公共施設などに・・・」
「うわー!信じられない」
ふたりとも驚いてさけんだ。
「でも、どうやったら見分けがつくの?」
「おこないを通してのみだ。行動の仕方でわかるんだよ。伝道師はいつも彼らを必要としているところにいるんだ」
「なにか外見で見分けのつくところはあるの?」
「なにもないよ。ただ彼らのおこない、その成果が全てを語っているんだ」
「でも、進化した世界から、そんなにおおぜい未開世界にきて、それ、宇宙の法に違反しないの?」
「あるところまでは許可されているんだ。そのうえきみたちは前の人生で得た情報をもう覚えていない。少なくともはっきりとした意識としてはね」
僕はアミに言われたことをよく考えてみた。でも自分が地球よりもより進化した世界からきたとはどうしても考えられなかった。
「僕が文明世界の出身だと言うけれど、アミ、僕には沢山の欠点があるよ。でも、オフィルで見た人たちは、僕よりもずっと進歩していた・・・」
「たしかにきみにはマンバチャのようなみにくい欠点がある。(笑って)そのうえ、未開世界の環境がさらにそれを悪化させてもいる。
でも、私欲を離れた奉仕の仕事につくことによって、以前のきみの水準を取り戻し、さらにあがってゆける。そしてきみの中に住んでいる狼から少しずつ遠のいていくことができるんだ」
「狼ってなに?」
とビンカが聞いた。
「チェグのような動物さ。でも羽のかわりに毛がはえているんだ」
とアミが答えた。
僕はバカな質問をした。
「アミ、そのチェグってなに?」
「狼に似た動物さ。でも毛のかわりに羽がはえているんだ。ハッハッハッー」
アミは高笑いをしながら答えた。