<< 「もどってきたアミ」第16章 アミの両親が教えてくれたこと
第17章 アミの真実の姿
アミの両親となごりを惜しみながら別れ、僕たちはあらたな未知の目的地へと向かった。
その時、僕は光の速さが一秒に約三十万キロメートルだということを思い出した。急にアミの円盤のスピードが知りたくなった。
「地球とキアはどのくらいの距離があるの?」と聞くと、
「おおよそ八百兆キロメートルだよ」とアミが答えた。
キアへ行くまでに、だいたい十分くらいかかった。僕はなんとかスピードを計算してみようとした。でも、ちょっと考えただけで、あまりに膨大なケタの数字に頭が混乱してしまった。
「ペドゥリート、もし我々の円盤の動く速さを計算しようというなら、それは時間の浪費だよ。我々は即時に位置するんだ」
「でも、ほんの数分だとしても、ある場所から別の場所へ行くのにいくらか時間がかかっているじゃない。どうして少しも時間がかからないって言うの?」
「そうは言ってないよ」
アミは笑って答えた。
「そうじゃなくて、円盤は一瞬のうちに目的地についてしまうんだよ。別の場所へ行くのにかかる時間は、この円盤の装置が目的地への距離や位置を測ったり、通常の~時間・空間とは異なる、次元を通ってから、いかに安全に目的地にあらわれるか準備するためにかかる時間なんだ。
わかる?だって隕石の通過するようなところは避けないといけないからね。ハッハッハッ!例えばそれは反対側にある回転木馬によりはやく乗るためには、自分の乗っている木馬からおりて向こうからくるのを待って飛び乗るだろう。ちょうどそんな感じだよ。でもこれはそれよりもはるかにはやいんだ」
「アミ、これからどこへ行くの?」
と、この話題にはほとんど興味を示さなかったビンカが聞いた。
「きみの家、キアだよ」
「もう、そんなにはやくぅ?」
彼女は不満だらけの声で言った。僕はなにか胃にずっしりと重たいものを感じた。もうちょっとすると、ほとんど自分の分身のように感じていた彼女を失う・・・それは自分の腕を切られるよりもさらにつらいことだった。まるで死刑台に向かっているような、耐えがたい時間だった。
全身が凍りつくような寒いところから突然、暖かい暖炉のある部屋に通され、用意された熱いコーヒーをいざ飲もうとしたら、ふたたび「表へ出ろ!」と追い出されるようなものだった・・・そんなこと、あってなるものか、僕が許さない!
「もし、ビンカがキアに残るなら、僕も残る!」
と強く断言した。でも僕の強がりは、小さな宇宙人の笑いを誘うだけだった。アミは父性愛に満ちた声で、やさしく語りかけてきた。
「ペドゥリートもビンカも、いいかい。そろそろ執着から離れるということを学んでいかなければならない。人生は、表面的に自分の欲するままに動くのではなく、神と完全に調和のとれた我々の内的存在、に従うということなんだよ」
その言葉は、僕にとって思い切り不愉快だった。
「僕の中にはたった人りの僕しかいない!」
と挑戦的な口調で言い返した。
「僕はビンカと絶対別れない。だいいち、どうして僕より小さい子が僕に命令なんかしなくっちゃならないんだ。たとえ進んだ世界の宇宙人であったにせよ、円盤の操縦ができるにせよ、僕より下だ。だから僕の人生は僕が決める。ビンカは僕と一緒だ。もしキアがダメなら、彼女が地球にくるんだ。そうだろう?ビンカ」
「そのとおりよ、ペドゥリート」
彼女も強い口調で言いはなった。
「そうだ、聞いたかい。これからはずっとふたりでいて、もうきみのような哺乳ビンをくわえたような小っちゃな子供の言うとおりなんかにはならないよ・・・」
アミは大きなおだやかな目で僕たちを見た。そしてくちびるにわずかなほほえみを浮かべて言った。
「テリは、キアにだけいるのかと思っていたよ・・・」
その言葉に、僕たちはひどいショックを受けた。直ぐに僕たちが、テリと同じような行いをしていることに気が着いた。それじゃ、ダメなんだ・・・。
少し落ちついてくると、恥ずかしさでいっぱいになり、顔をあげていられなくなった。だいぶたってから、視線を床からはなしてアミのほうを見た。アミはもういつものアミではなくなっていた。光り輝いた、純粋で美しい全く別の存在と化していた。
僕は自分を汚く、醜い、虫けらか雑菌のように感じた。光いっぱいにあふれたアミの視線に、僕は全く耐えることができず、ふたたび視線を下げた。
アミは変貌していた。あの普通の子供のように見せていたマスクを取った、本当の姿を僕たちに見せつけた。それは神々しいまでに燦然と光り輝く存在だった・・・。
ビンカは、僕の横で泣きじゃくりはじめた。彼女もまた、僕と同じように顔を上げることができないでいた。
「どうして今まで、本当の姿をあらわさなかったの?」
僕は床を見たまま、敬意のかけらもなく、汚い暴言をはいたことをむなしく介護するかのように言った。
「なんのことを言っているのか、全然わからないよ。僕を見てごらん。なにか変わって見えるかい?」
そう言われて、ゆっくりとおそるおそる視線を上げた。僕の目の前にはいつもと変わらぬにこやかにほほえんだアミがいた。そのほほえみは、さっきの劇的なまでに緊迫した場面を、少しずつほぐしはじめていた。
もう、あの光り輝いた子供ではなく、いつものアミ、僕たちの友だちのアミだった。
でもなにかが違っていた。まだ、僕の脳裏にはあの”別”のアミの記憶がはっきりと残っていた。
彼の顔は普段と変わらなくなったけれども、そこには”別”の顔、別の存在の入口がはっきりと暗示されていた。
その向こう側になみなみならぬ大きな存在が隠されていることがありありと感じられた。ビンカは彼の前に歩み寄り、ひざまずこうとした。
「全く偶像崇拝が好きだね!」
アミは笑いながら、ビンカのひざが床につくのを阻止した。
「どんな兄弟にも、たとえどんな直ぐれた上の兄弟にも、ひざまずいてはいけない。我々は、神の前にのみ、ひざまずくことができる。
ただ、自分の心の奥底、孤独の中での内的コミュニケーション、つまり瞑想と祈りによって、はじめてその目に見えない存在にひざまずくことができる。おいで、もうひとつの部屋を見せてあげよう。そこで至高の神性と通じ合うことができる」
アミは、ひとつのドアのほうに、僕たちをみちびいた。引き戸をあけると、中はうす暗い闇だった。ただ奥にあるとても小さな光だけが、その周囲をわずかに照らしていた。
中に入った。
「我々の全ての円盤の中には、搭乗員の数に合わせて大きさの決められた、このような部屋があるんだよ」
アミは扉を閉めた。やがて暗闇に目が慣れてきた。部屋の左右には、ふたつずつ繋がったイスが床に固定されていた。奥の正面の小さな光がうっすらと床にある横長のクッションを照らし出していた。まるで小さな礼拝堂にいるような感じがした。
アミの声がおごそかな口調に変わった。
「奥のほうでひざまずいても、このイスにすわってもいい。ここで、我々は瞑想したり祈ったりする。瞑想のほうがいい。祈りは自分と神と別々だけど、瞑想は神性と一体だ。その中に融合してしまう」
僕たちは、ひざまずくことにした。たぶん、そうすることが必要だった。クッションの上にひざまずいたとき、アミがなにかを操作した。室内はゆっくりと、もうこれ以上は想像できないくらいに美しい照明に満たされた。
バラ色、金色、リラ色、紫色などの数えきれないような多様なトーンが混じり合いながら、壁面にゆれた。別の次元にすべりこんだような錯覚におちいった。
ビンカはくちびるにほほえみを浮かべ、うっとりとした様子で見入っていた。
少しずつその色彩に影響されて、なんだかとても奇妙な感じがしてきた。まるで自分自身の内部に逃避してみたいような、そして目を閉じて感じはじめつつある、ある”気配”に身も心もまかせてしまいたいような欲求だった。
全てがとても大きくそして美しかった。だけどそれが、僕の心の中でのことなのか、それとも外でのことなのかははっきりわからなかった・・・。
たぶん一番最後に脳裏に残っていた記憶、それは時間・空間の外にある大宇宙をさまよっている宇宙船の中にいたことだった。そして同時に、またその大宇宙の中心にもいた。だって僕はそのとき、創造の中心そのものとも通じ合っていたんだから。
そのあとで僕の意識をいっぱいにしたのは、もう思考ではなく、知性を通らずに、僕自身の存在の奥底にいきなり達したあの感覚、あの体験だった。
僕はもう考えていなかった。ただただ、その中に、激しく生きていた。
金色の光が僕を包み込んだ。その光はひとつの存在だった。僕自身がどんどん大きく、無限に、永遠に感じられた。
それは意識の純粋な幸福。僕の頭にはもうたったひとつの疑問さえもよぎらなかった。なぜなら、そのとき僕は全ての答えを握っていたのだから・・・。
今はもう、いったいなにをどうやったのかはっきりと思い出せない。でもあの瞬間、僕は過去、現在、未来の全てを知っていた。自分のこと、そして宇宙のことを。
いやそれ以上だった。僕は宇宙の中心だった。僕が宇宙をそうさしていた。僕の中から全ての銀河も全ての魂も流れ出ていた。
そしてそのあとで、一種のリズム、僕の呼吸とも脈拍とも思えるリズムに戻った。にもかかわらず、僕はそれよりもはるかかなたにいた。
僕の中心には、幸福に満ちた大きな平静さと、あふれるほどの叡智があった。そこに、僕の平穏があった・・・。
今、あの状態をうまく表現することは簡単じゃない。全てがすみずみまで完璧であり、素晴らしかった。苦悩さえもそうだった。長い時間を経てみれば、苦悩もひとつの教えであり、清めであり、あやまちの結果であり、そして強くなるための試練でもあった。
苦悩とはなにかを忘れていることが原因だったということが、はっきりわかった。なにかを・・・でもなにを?その答えはわからなかった。
僕の意識はだんだんと平常の水準に戻りつつあった。少しずつあの普段の頭の中でのいつもの問い、いつもの疑いの中へ・・・。そこで答えを見失った・・・。
なにを忘れているんだろう?自分の肉体を感じた。僕の重いひざはクッションの上にあった。
僕の一部分はその小さな身体の中に戻るのを望まず、別の自分はその中に入るよう、僕を押しやった。でもその答えを知るためには、どうしてもまた、宇宙を”そうさした”あの感覚、あの無限の叡智いっぱいの中心点に戻りたかった・・・。
“なにかを忘れているのが苦悩を生む原因だった・・・でもなんだろう?”
一瞬、またあの感覚に戻ることができた。でも、強い力がそこにいた僕をひっぱり、円盤の中へ、そして重い身体へと引き戻した。
“きみの使命を思い出して”
なにかの声を聞いたように感じた。
“きみの使命は下にある”
僕はちゃんと知っていた。でも思い出したくなかった。反発した。上にのぼりたかった。
“上にのぼるには、まず下に行くことが必要だ”
と内的な声が言った。
なにを忘れているために苦悩が生まれるのか、思い出せなかった。
「本当の自分、内的存在を忘れているんだよ」
とアミが僕の隣りで言った。
それが必要な答えだった。それが最終的に円盤へ、あの空間へ、僕の身体へ戻ることを決めさせた。
目を開けたとき、あの美しい光はもう消えていた。ただ、僕の目の前に、あの小さな光だけが灯っていた。ビンカは小さな宇宙人の横に立って、感動に目をうるませて僕を待っていた。
少しずつ、いつもの僕の現実に、いつもの無知とあやまちにまみれた現実に戻っていった。
「そう、内的存在を忘れているんだ」
消えていきつつあるその言葉の意味を忘れまいとして、僕は言った。
「そう。それが、我々があやまちを犯す原因なんだ。そしてそのあやまちの代償を苦悩として支はらうことになるんだよ」
「よくわからない・・・僕の内的存在ってなんなの?」
「神性だよ」
とアミは僕を起こしながら言った。
宇宙礼拝堂とでもいったその空間を出ながら、僕は幸福の中心点とか無限の叡智といったあの体験と感覚を忘れまいと努力した。
「それなんだ。それが内的存在なんだよ。決して忘れないようにね。いつも、きみ自身のその部分から離れず行動すれば、決してあやまちを犯すことがない。だから苦しむこともないんだ」
「そのとおりだよ、アミ。僕は僕の全てが叡智だったところを体験した」
「私は私の全てが愛だったところを」
ビンカが感動をこめて言った。
「愛と叡智、わかったろう?だから、おぎない合ったカップルなんだよ。きみたちの一人ひとりが神性の一部を明らかにするんだ」
アミは操縦室のほうへ向かった。
「見てごらん。さあキアに着いたよ。でももう反乱を起こさないだろうね。ハッハッハッ!」
アミの言葉は、僕たちが彼につきつけた暴言を、そして、あの燦然と輝いた存在への変貌を思い出させた。
「アミ、説明して。あの変貌はどういうことなの?」
「その変化の大部分は、きみたちのほうにあったんだ。わずかのあいだだけど、ものごとのあるべき姿を見ることができたんだよ。表面に見えているものの、もっと向こうにあるものをね。
我々はみな思っている以上の、なにものかなんだよ。誰もがみんな、輝いた存在なんだ。でもある特別な瞬間だけ、我々は自分や他人の本当の次元というものをとらえることができる。
とても悪い行動をとっていたから、きみたちの内的存在がそのまちがっている行動を気づかせてくれたんだ。きみたちは自分たちの愛を守ることだけを望んだんだからね。別れ別れにならないってことを。愛は暴力のもっとも大きな原因のひとつなんだ・・・」
あまりに理屈の通らない説明に当惑して、僕はビンカと顔を見合わせた。
「愛ゆえに母狼は、自分の子に危害をくわえようとする者に対してより獰猛になる。人間も、一般的に言って自分たちの愛のためには他人に対して残酷になりエゴイストになる。
こういった愛が戦争を生み出す。こういう愛がきみたちの世界をとても危険な状態にしているんだよ」
「いつわりの愛だね」
と、僕は理解したつもりになって言った。
「いや、そうじゃないんだ。それも愛なんだよ。ただ低い度数の愛なんだ。我々はそれを執着と呼んでいる。執着ゆえに、盗んだり、嘘を着いたり、殺したりする。生き抜きたいというのはひとつの愛のかたちだ。
でも、ただ自分自身や自分の家族、小さなグループや自分の属している団体や党や派閥に対してのみだ。悲しいことに、そういった生き方のせいで、全ての人たちが命を失う寸前なんだ・・・それはみな過度の執着の結果なんだよ」
「そのとおりだわ、アミ」
と、少し考えこんでいた様子のビンカが言った。
「たぶん、テリにしても、きっとそういう愛で持って行動していると思うわ。悪意ではなくて・・・」
「素晴らしいよ、ビンカ!そう考えられただけでも世界が変わるよ。ずっと高い視点だ。暴力で争っている党派を超えた高い視点だよ」
「悲しいことだけど、テリ・ワコとテリ・スンボの争いのため、私たちの国スワマはとても危険な状態にあるの」
「キアにあるのは、たったひとつの国だよ。テリとスワマによって形成されたね。それがきみの世界なんだよ」
この考えはビンカにとって、とても新鮮なおどろきだった。
「彼女が自分の属しているスワマのほうに傾くのは当然だよ・・・」
僕には、彼女の気持ちがよく理解できて言った。
「またまた、低い水準の愛だ。執着だよ。自分の属する派とその他の敵対した派。執着とは制限された愛のことだ。でも本当の愛に制限はない。今日まできみたちの惑星の人は、執着を通して生きてきた。
でも、これからは第三から第四の進化段階へ通過できるよう挑戦しなければならない。
もし、どうしても生きのびることを望むなら、もう執着は乗りこえて、本当の愛にしたがわなければならない。その他の方法はありえないよ。ただ、自滅が待っているだけだ。これが宇宙の法なんだ。
まだ分裂したままの状態の世界では、執着は、それなりの役目を果たしている。でも、この分裂が人類全体の生存をおびやかさずに済むのは科学的な水準がそれほど発達していない状態のときまでの話だ。
そのあとの、ちょうどきみたちの世界のような段階の場合には、そのエゴイズムを放棄するか、自滅するか・・・道はふたつしか残されていない。不均衡でエゴイスティックな愛である執着を放棄しない限り、公正で平和な世界を建設することは不可能なんだよ」
「どうして不均衡なの?」
「愛にはふたつの在り方があるんだよ。ひとつは自分自身に向かう愛、もうひとつは他人に向かう愛だよ。空気が入り、出ていく。ちょうど呼吸と同じようなものだ。執着があるとき、はき出す空気の量よりも、はるかに多く吸いこむようなものなんだ。
全て、みんな自分のもの、もっと自分へ、自分の家族へ、自分の党派へ。そしてその他の他人にはより少なく。これを不均衡っていうんだよ」
「あなたの隣人をあなた自身のように愛せよ(訳注:マタイによる福音書19章19節)」
僕は宗教の時間に習ったことを言った。
「それ、フストの言った言葉よ。どうしてそれ知っているの?ペドゥリート」
「フストって誰だい?」
「キアの歴史上の偉大な師よ」
「それが宇宙の法なんだよ。それを説明したかったんだ。それが本当の愛、均衡のとれた愛なんだよ。他人のことも自分と同じ量だけ、同じように愛するんだよ。不均衡にならないようにね」
「じゃ、もし自分より他人のほうに向かってよけい、愛があったらどうなるの?」
と僕は聞いた。
「やはり不均衡になる。ちょうど呼吸せずに全て空気をはき出すようなものだよ。数分後には死んじゃうよ・・・」
「均衡って言葉、とても大事な意味があったのね」
とビンカ。
「テリをスワマと同じように愛せよ」
アミが笑顔で言った。
「そうつとめるわ。実際にそうこころみてみるわ、私」
操縦盤のランプは、円盤がキアの人には視覚できないことを示していた。円盤は地球のどこにでもあるような都市の郊外の空中に停止していた。でも、外を観察する気にはなれなかった。
別れのときが目の前にせまっていた。”いったい誰が、いつまではなればなれでいなくっちゃならないのか知っていよう”。僕は悲しくなった。息もできないくらいだった。
「次の本を書き終えるまでのことだよ」
とアミが言った。
「戻ってきたアミふたたび、とかいう題にしたらいいよ」
「アミ、きみはとても沢山の知識や力があるけど・・・文法はあまり強くないようだね」
と僕は言った。
「どうして?ペドゥリート」
「だって”戻ってきた”ってあれば”ふたたび”って言わなくったっていいんだよ。重複になっちゃうからね。だから”戻ってきたアミ”でいいと思うよ」
「そのとおりだね。語学はどうもあまり得意じゃないんだ。それは、我々がほとんど言葉を使わないせいなんだよ。テレパシーのほうが一般的だし、ずっと正確で確実なんだよ」
「でも、アミ。さっききみの両親と話していたじゃない・・・」
「うん。でもそれはきみたちに対する礼儀なんだよ。自分たちの言葉のわからないお客がきたとき、お客の言葉をもし知っているなら、それで話すべきだからね」
今、どうしてその会話についての細かいところまで覚えているのかわからない。あのとき、僕には、あの悲しい別離のことしか頭になかった。
でも、いとこのビクトルに語っていると記憶がはっきりしてきた。そうだ、アミはテレパシーで手伝ってくれるって言っていたっけ・・・。