宇宙人アミ

「アミ 3度めの約束」第1章 待ちぼうけ

第1章 待ちぼうけ

信じられないことだった。
ついにアミの円盤が、星の瞬いた夜空に、あの海岸の岩の上の夜空に、現れたのだ。

僕の心は、また、幸せな気持ちで一杯になった。
どんなに長いこと、この瞬間を待っていたことだろう。でも、これでまた、なにもかも前と同じになるんだ。

黄色い光線がきらめき、僕を包みこんだ。
僕はその光に身をまかせたまま、宇宙船の入口の小さな部屋までひきあげられた。
頭には彼女のことしかなかった。

ビンカ。
そう、僕の宇宙の恋人。
そして僕の双子の魂・・・。
あの悲しい別れの後のまちにまった再会が目前なのだ。
僕のハートは喜びに高鳴っていた。

「ようこそ船内へ」
と、見たこともない、風変わりな少年が、微笑みながら現れて、僕を出むかえた。
とても奇妙な感じがした。

だって僕は、アミかビンカに会えるとばかり思って、それを期待していたんだから。

「残念だけど、今日、アミはこられない。でも、まあ、中に入って、さあ、ペドゥリート」

僕よりもずっと背の高い、ほっそりとした男の子で、ビンカと同じバラ色の髪、紫色の瞳で、耳の先っぽがとがっていた。

あきらかに彼女と同じ人種、スワマだとわかった。

「ビンカはどこ?」
操縦室に入る前に、彼に聞いてみた。

「ああ、ここにいるよ。さあ、こっちだ」

僕は安堵のため息をついて、幸せな気持ちで中に入った。奥のほうには、あの魅惑的な瞳をしたビンカがいた。とても輝いて見えた。

いとしさで胸が一杯になり、僕の笑顔からは火花が飛び散ったようだった。でも彼女ときたら、僕を好意的な目で見るかわりに、冷たい視線を投げかけた。

立ち上がってこっちにかけてくるようすも見せなければ、再会の喜びの表情を浮かべるわけでもなく、ただ遠くから冷めた顔で僕を見ただけだった。挨拶すらしようとしない!
なんだか不安になってきた。

少年がビンカのほうへ歩みよると、ビンカはその蜜のような笑顔を、僕にではなく(!!)、彼のほうに向けたのだ。

そして少年はビンカに近より、僕の永遠のパートナーの肩の上に手をおくと、勝ちほこったような視線で、僕を見下ろした。

「ま違いがあってねえ。違った世界の者どうしで双子の魂っていうのはありえないことなんだよ。僕達は二人ともキア星の人間。でも、君は地球人だ。だから、彼女は本当は僕の双子の魂なんだよ、君のじゃなくてね」

少年は、そう言うと、ビンカに永遠に続くかのような長いキッスをした。彼女は彼の首筋を優しくなで、そして、激しく彼の背中に爪を立てた・・・。

僕はほとんど、胸の中が引き裂かれる思いだった。
泣きたくなった。

でも身体が金縛りにあったようで、どうすることもできなかった。
ビンカは僕を捨てて、別の男の子を選んだんだ。

僕のような十二歳にも満たない赤んぼうじゃなくて、この年頃の女の子なら、誰でもたいてい好きな十七、八歳くらいの、もっと大人の子を・・・。

そのとき、大きな音が聞こえた。「ペドゥリート!」
ハートにとても強い痛みを感じたまま、目を開けた。
僕は海岸の家の自分の部屋にいた。

“ああー、また、いつもの悪夢だったのか・・・”

僕は起こしてくれたおばあちゃんに、心の中で感謝しながらつぶやいた。だんだん気持ちも落ちついてきた。

「ペドゥリート、もう起きる時間だよ。あたしゃこれからヨガの教室へ行ってくるよ。誰かが起きて家にいなくっちゃならないからね」

「あ~、わかったよ。おばあちゃん、もう起きるよ」

「それからペドゥリート、あたしゃ12時頃人に会わなくちゃならないから、お昼は少し遅くなるよ。12時になったら、オーブンのスイッチを入れておいてね。ジャガイモのケーキが入っているから。あとは、帰ってきたら、あたしがみんなするから、いいね」

「わかったよ、おばあちゃん。心配しないで」

「じゃ、頼んだよ、ペドゥリート。気をつけてね」

そう、あのころの僕は、いつも悲しい気分で、いらいらしていた。

アミやビンカからなんの音沙汰も無いまま、ただ時間だけが過ぎていくにつれて、しょっちゅうこういう怖い夢を見るようになった。でも、幸いなことに、悪夢ではあってもそれはたんなる夢でしかなかった・・・。

僕のおばあちゃんは、どうしたことか突然、”若返りの発作”におそわれて、ヨガをはじめ、ビタミン剤を飲み、年よりも若い服を着て、美容師だか化粧師だか脱毛師だかよくわからないけど、そんな感じの昔の仕事を再開していた。

そんなわけで、今は家にいる時間が少なくなり、温泉場に行くだけでなく、仕事で戸別訪問もしていた。

そのおかげでお金にも余裕ができて、夏の間中こうしてずっと海辺の家を借りられるようになった。

ここに着いたとき、アミは直ぐにでも僕に会いにきてくれるものかと思っていた。でも、僕は二カ月のあいだ、以前、彼と会ったあの海岸の岩の上で、むなしく彼を待ち続けなければならなかった。

もう、夏休みも終わろうとしている。もうじき都会にもどらなければならない。でも、いまだに、アミから全くなんの連絡もない・・・。

この悲しい待ちぼうけのせいで、僕の夏休みはなにかとても暗い、気持ちのやり場のないものになっていった。

毎日、アミの円盤が見たい一心で、何時間も何時間も暗くなるまで空を見続けた。空にちょっとでも光が見えれば、希望に胸をときめかせた。でも悲しいことに、それは人工衛星だったり、ただの隕石だったり、たんなる飛行機にすぎなかったりで、どれもあのアミの円盤(ビンカに会うためのたったひとつのたのみの綱)じゃなかった。

どんなに彼女に会いたいことか・・・僕の心の奥に、ビンカはこんなにも深く入りこんでいる。実際にビンカと一緒にいたのは、何カ月も前の、ほんの一日足らずのことだ。でも、僕達は出会ったときから、永遠に結ばれているかのように感じられた。僕達はお互いに、いっときでも離れているのがつらいと思うほどひきつけられていた。

そして数時間後には、僕達の二つの魂は同じ1つの存在の片割れどうし。つまり、双子の魂だということがわかった。だからこそ、その別れは身を切られるようにつらかった。彼女だって同じだったと思う。

僕は彼女のことを、毎日毎日思い出していた。はじめて見たときから、ずっと彼女のことを考えていた。いつも彼女の存在を、僕の中に感じていた。そしてあるとき、それは永遠に続いていくものだということに気がついた。それはとっても素敵なことだった。

たとえ彼女が僕のそばにいなくても、僕は彼女のことを考えることで、より元気に、より完璧に、そしてより幸せに感じることができた。

当然だよ。だって僕達は、愛によって結びついているんだもの。そしてアミのおかげで、愛こそが全てで宇宙の最も大きな力であることがわかったんだから。

こうして、愛はたんに美しい感情ではなく、もっとずっとそれ以上のものであるということが理解できた。

アミに出会ってから、僕には新しい神が存在するようになった。たぶん、神を信じない人達だって、宇宙の創造者に関しての僕の新しい見方には賛成してくれると思う。だってそれは、宇宙の進んだ世界のものと同じだし、そこから受け取ったものなんだから。

神は今までも、そしてこれからも同じだっていうことを僕は知っている。でも、僕達人類の神に対する見方は、時とともに、僕達の進化とともに変化していったんだ。

最初のころ、人々は岩とか、雷とか、太陽とかを創造者と思いこんでいた。その後、必ずしもそうでないということを学んでいった。そしてより高いかたちで神を理解していくたびに、それが僕達にとって、新しい神に変わったように感じられる。まさにそれと同じことが、僕の中で起こっていたんだ。

アミと知り合う前、僕が想像していた神とは、いつも僕達を見はったり、こらしめたりする、厳しくて復讐心の強い、怒りっぽい神だった。

それはある人達が、僕を怖がらせるために教えこんだイメージだった。実際、それに似たようなことも聖書のある部分には書かれている。そのせいで、子供のころ、僕は神がとても怖かった。

だから、少し大きくなって、神のことを考えさえしなければ、怖いイメージの悪い波長に巻きこまれずにすむということがわかって、神の存在を疑ったほうがよいと思ったりもした・・・。

でも、今、僕にとって神は、宇宙を操作する、善良で光り輝いた”知的な存在”となったんだ。その”愛の神”は、遠い星から円盤に乗って僕に会いにきたアミが教えてくれたものだった。

たしかに今は、僕は神にとても関心をもっている。だって、それはもう想像するだけのものじゃなくて、僕自身で体験出来る、身をもって感じられるなにかに変わったからなんだ。愛が神だから、愛を感じるたびに神を体験しているんだ。

とても単純なことだけど、それを頭の硬い、マジメな人が話すと、難しい神学の言葉を使って全てをややこしくしてしまい、結局のところは、僕達を本当の神から遠ざけてしまう。

僕達の惑星の住人たちの内面は、半分ゆがんでいる。だから、こんな単純なことが理解しにくいんだよ。それと同じことが、この世界の取り扱いについても言えるんだ。僕は惑星オフィルをはじめとする進んだ世界へ行った。

そうやって、宇宙の進んだところでは、ちょうど惑星間大家族のように、愛をもって全てを分かち合っていることを知った。とても単純。そして結果として、毎日お祭りみたいに楽しんでいるように見えた。だって、みんなよろこんで幸せそうに歩いていたんだもの。

でも地球では、通りに出て人々の表情を見ると、うれしそうな顔をした人は百人のうちせいぜいひとりぐらい、あとはみんな、不機嫌そうな顔をして歩いている・・・。

そして大部分の人が、自分たちの問題はお金さえあれば解決出来ると思っている。でも、豊かなところに住んでいる人達ほどもっと不機嫌な、石のように硬い、しかめっつらをしている・・・。

つまり、物質的なものとは、たんに”外側の部分”にすぎないけれど、幸せとは”内側の部分”と密接に関連していて、同時に愛とも関わっていることなんだ。

愛、それはまさに僕達よりも進んだ世界の根本指針でもあるんだ。だから、あの世界では人生を”私達みんな”という立場からとらえているのに対して、地球ではただ”自分”だけが重要なことなんだ。

残念ながら利己主義は、僕達のもっとも自然なふるまいだ。僕達の生活スタイルは全てそこから生みだされている。”競争”といういっけん上品な言葉であらわされてはいるけれども、これはたんに先史時代的な”密林の法”でしかないんだ。

この有名な”競争力”という”文明”のモーターに僕達の生活スタイルは動かされているというわけなんだ・・・。

でも、宇宙の文明世界は、もうとっくに先史時代を卒業している。そこでは共有はあるけど、競争はない。

そのために、そしてそのほかの理由も含めて、宇宙の文明世界は、僕達人類をまだ文明化した、進化したものとはみなしていない。彼らにとって、僕達はどっちかというと、一種の原始人のようなものだけれど、僕達は自分たちのことを、いつも”現代人”だと考えている。

きっと13世紀の人達だって、そうだったろうし、いつどの時代の人達だって同じように考えていただろうけれどね・・・。

近頃、僕の住んでいる地球じゃとても追いつけない(と思う)ようなすごい技術を持ったあの宇宙船が、よく目撃されるようになってるみたいだけど、搭乗員たちは、僕達と正式なかたちでコンタクトをとるつもりなんてからきしない。でも僕達には、それがちっともわかってないんだ。

考えてもごらんよ。たとえば、地球の先進国の大学の教授たちだって、いくら調査のためだとはいっても、好き好んで密林の奥深くに住んでいる未開人と直接に接触しようとはしないだろう。

なぜだろう?教授たちを彼らのところへ送りこめって?でもそんなことしたら、きっと毒のついた槍で、くし刺しにされてしまう・・・。それより、彼らの手の届くところに、教えたいことのABCを書いたわかりやすいイラスト入りの本でも置いてくるほうが、ずっといいとは思わないだろうか。

別の例をだしてみよう。
もし、君がとても危険な犯罪者を訪ねたとしよう。きっとその犯罪者は、君が自分を支持しているものだと考える・・・でも、もし君が「あなたの行為は間違っています」などと伝えたいのだとしたら、防弾チョッキは決して忘れないようにしないと・・・それだってものの役には立たないかもしれない。

だって犯罪者は、自分のすることをきちんと心得ているだろうからね。だからこの場合も、犯罪者の近くに本を置いておくほうがずっといいだろう(でも、抗争とか弾傷だとか危険に関すること、それに沢山の憎悪、苦悩、悲しみといった言葉を、本に沢山盛りこむことを決して忘れないように。そうでないと退屈して、本を遠くに投げとばしてしまうからね)。

アミは全ての人に対して、たとえこの薄暗い未開世界の先史時代に生きていて、まだ愛を尊重することもその重要さもわからないような人達にでも、あるいは自分の知識を新兵器の開発のために悪用しているような科学者や、平然と自然を破壊しながら商売しているような人達に対してさえも、明るくよい波長をもって生きるようにと、そう言ったのだ(アミはこんな野蛮な人達を愛することをとても優しいことと思っている)。

アミが言うには、彼ら”人類の慈善者たち”は(少なくとも彼らはそう思っているだろう・・・でも、僕だったら絶対、彼らを刑務所に入れて、これ以上害を流させないようにするけれど)悪人というわけではなく、たんに無知なだけなんだという。

だから、その解決法は、彼らと争うのでも、刑務所へ放り込むのでもなく(本当のところ、僕にはとても残念だけれど)まず教えてあげること、頭や心を入れ替える手助けをしてあげることだという。

少なくとも、これから変われる可能性の高い若い人たちにはとくにそうしてあげる必要があるというのだ・・・(今気がついたけど、スペイン語のADULTO〈大人〉とADULTERAR〈偽造する、姦通する〉は同じ語源から派生している)。

でも、いつか僕達はもっと違った、ずっと人間的な世界に、本当に到達することが出来るのだろうかと考えてしまう。

確かじゃないと思う。だって、学校では、よりよい人間になるようにとは教えてくれない。
僕達の教育は”内側の部分”ではなくて、外側のもの、ばかりに指導が向けられていて、そのためにすることといったら、ほとんど、資料を暗記することばかり。

それも幸福になるためとか、人生の高い意義を理解するための資料というわけでもない。そんな資料ばかりで頭を一杯にしたところで、深い意味のことは全くわからないし、内側では、なにも変わらない。ましてなんの進歩もない。

そして、僕達を連帯感のある人になるようにうながすかわりに、すごく”競争心”のある人になるようにとかりたてる。

それはつまり、全てにおいて、人を踏みつけ、押しつぶしてでも、とにかく勝たなきゃいけないってことだし、のし上がっていかなきゃ意味がないってこと。僕達は現在、こういう哲学、道徳、そして倫理でもって教育されている。

たしかに外見は以前よりもずっとよくなった。みんなきれいな服を着て、思い思いの髪形で、高価なブランド品を身につけて、携帯電話をもっておしゃべりに夢中になって歩いている・・・でも、僕達の內部は???・・・ほとんどなにも変わっていない!

こういった現状を前にして、僕はときどき思ってしまう。たぶん、僕達の世代も大人になったからって特別に違ったことはしないだろうと・・・でも、いつかきっと別の世代が?・・・。

僕は変わった。
今はとても真剣に地球の、そして人類の運命を考えている。

でも、残念ながらこれも学校ではなく、アミに教えてもらったことだ。僕の魂がゆく道を照らしだした、この大きな光も、残念ながら地球の教えではないんだ。

かといって”上の友だちたち”はいちいち僕達一人ひとりの目をさましているわけにはいかない。

それに地球では、人類の内的向上などということには、あまりにも関心が薄い。だから、よほどの大惨事でも起こらないかぎり、そして仮に大惨事が起こった後に生きのびられたとして、どうしても今とは違った新しい世界をつくりなおさなきゃならない、ってことにでもならない限り、この世界が良いほうに変わるのはやさしいこととは思えない。

でもアミは、大惨事を起こすことなく変えるほうが、ずっと理想的だという。そして、アミはそれに少しでも貢献するために、僕にひとつの使命を与えた。

そうして僕は、僕達がずっと進んだ世界の人達みたいに生きるためにはどうしたらいいのか、ごくごく初歩的なことだけれどとっても大切なことについて、本を書いた。

もう前にも言ったことだけど、別のもっと高い世界では、すでに宇宙の基本法、つまり「愛」にのっとっていて、愛に導かれている(これも僕の人生にさしこんだ大きな光だった!勿論地球からじゃない)。それはとても単純明快で、全ての人々にとってより大きな幸福や、利益につながるものなんだ。

この手の話って地球では”妙にロマンチックで、精神的”に思われがちだけど、あの光り輝いた世界では、研究所や大学で特別に研究されているし、精神向上のための活動もさかんだ。

だって、あの世界では精神性と科学とは同一のものであり、全てが愛に依存しているということを、みんなが知っている。だけど、ここ地球では、全ての”価値”はみな株や銀行、いわゆる経済(お金)しだい・・・。

世界をひとつにまとめて動かしていくなんてことは、微妙で、複雑で、ちょっとしたサジ加減が大切なんだから、誰にでも出来ることじゃない。

だから本当は、優れた科学者とか賢者とかが世界を治めていくのが道理にかなっているんだけれども、ここ地球では、なにひとつ愛にもとづいて統治されてない。だから、僕達は論理的な存在なんかじゃないんだ。

インテリな読者の中には、僕が今強調したことは、ちょっとおかしい、愛と論理とは、全くの別ものじゃないかって言う人がいるかもしれない。にもかかわらず、ここにアミが残した、
“愛は最高位の論理である”
という言葉がある。

でも、これはハートの叡智だけが理解出来ることで、僕達を指揮している偉い人たちには全く理解できないから、この論理が地球で適用されることもさらさらない。

ここ地球では、本当につじつまの合わないことが起こっている。それこそ本当に非論理的なことだ。

つまり、人類の運命、僕達の未来、そして全ての宇宙の生命は市場(お金)の法にゆだねられている・・・というわけなんだ。

こうして、僕達の美しい、そしてお金が大好きな目のくらんだ宇宙船地球号は、銀河系をゆっくりとまわっている。

どんな手を使ってでも手に入れなきゃいけない(と思いこんでいる)お金、お金、お金!!みんなが目を血走らせて競争ばかりしてるんだ。

自分達の実入りさえよければ他の人達の人生や豊かな生活、自然の保護、地球の未来なんかはどうでもいい。僕達の地球を支配しているそうした哲学の結果は、火を見るよりあきらかだよね。大多数の人々は、幸せから遠いところにいるか、食べるものがないか、人生を楽しむ時間がない。

汚職のないところなんてないし、暴力や犯罪は増えるばかりで、研がれた爪や牙は隣人に向けられ、町には錠前や鉄格子や拳銃や壁が増え、貧しい人々と富んだ人達の差は日増しに広がっていっている。そしてうまみのある”ビジネス”が、僕達の惑星を汚染し、破壊していく。

人類にとっての必要なものとか、深い意義はどこへいったの?本当の友情とか優しさ、親切心とか愛情はどうなったの?このまま進んでいったら、どんな未来が待ってるっていうの?
でも、考えてみると、今僕が言ったことって、一文の得にもならないことばっかりだ。

ここでは人々とはたんに”生産するための機械”で、”消費者”で、自然とは”商品”でしかないんだから・・・。”もしあなたが、こちらに利益をもたらすなら、私はあなたに親切に、そして微笑みかけましょう。でもそうでないなら、早くオレの視界から消えうせろ”・・・こんなふうにこのまま続けていったら、僕達みんな絶滅してしまう、そして本当はそんなこと、誰でもよくわかっている。でも、すべてはまったく、同じまま・・・。

“ねえ、アミ、お願い。どこにいるのか知らないけれど、僕の頭に周波を合わせて、僕に会いにきて!僕、どうしてもビンカに会いたいんだ”

どんなに距離があっても、アミは僕の思っていることを受信出来るって知っているから、僕は毎晩、あの岩の上に座り、頭をとおしてそう彼に話しかけた。

でも全然ダメ。僕は真っ暗になるまで空を見上げながら、意識を集中してテレパシーのメッセージを送り続けた。そうしたら、ちょっぴり悲しくなり、そして、少し怖くなり、ひょっとしてこの夏はアミは来ないんじゃないかと思えて、かなり失望しながら家へ帰った。

二冊目の本『戻ってきたアミ』はもう、書き終えた。それが、アミがビンカをつれて三度めに僕に会いにくる条件だったんだ・・・。

本当は、『アミ小さな宇宙人』も『戻ってきたアミ』も、僕の言ったことを、いとこのビクトルが書いたものだ。彼はもう30歳を少しすぎていて、多少、文学について知っている。

でもこの新しい本は、僕ひとりで書いている。ありがたいことに、あの素晴らしい”援助”を受けてね。でも、そのことについては、あとで話すことにするよ。もうちょっとの辛抱だよ。

そんなある晩のこと、僕が家に帰ると、おばあちゃんがこう言った。
「どこへ行っていたんだい?ペドゥリート」

「広場のゲームセンターだよ」

僕はいつも、海岸でのあの失望的な待ちぼうけのあと、ゲームセンターに行った。
「どうして、そんなことにお金を使うんだい?家のコンピューターで同じゲームが出来るのに」

「同じじゃないよ、おばあちゃん。ひとりで家で食事するのと、だれかとレストランで食事するの同じじゃないでしょう」(われながら、とってもいい比較がひらめいた)・・・。

「ウーン・・・ちょっとうかない顔しているけど・・・どうしたんだい?ペドゥリート。いつも夜、家に戻ってくるとそうだけど。好きな娘でもできて、悩んでいるのかい?」

全くそのとおりだった。でも、そんなこと言えないよ。だって”好きな娘”といっても、ただの好きな娘とは訳が違うんだ。僕の愛する人は、はるか遠くはなれたところに住む宇宙人で、僕の永遠の恋人、双子の魂なんだ。そして彼女に会えるかどうかは、全てアミ(彼女とはまた別の宇宙人)と彼の円盤しだいなんだ・・・。

でも、どうしてこんなこと、おばあちゃんに言えるだろうか?それに、いとこのビクトルときたら、もっと最悪で、いつもお前には精神療法が必要だと、僕をおどしている。彼の口癖はこうだ。

「ペドゥリート、お前の頭の中は変な空想で一杯だ。本当によくそんな面白いことが、いろいろ思いつくよ。だからあの本を出版出来るように手伝ってあげたんだ。でも、あれを本気にとっちゃダメだ。あれはたんなる、く-う-そう、空想なんだ。現実じゃないんだよ。」

といつもうんざりするほど、何十回となく繰り返している。

だから、おばあちゃんにはこう答えるしかなかった。

「ううん、そうじゃないよ、どうもうまくいかないんだよ、ゲームがね。2位まではいくんだけど、どうしてもトップになれないんだ。僕のイニシャルをどうしても機械に刻みたいんだけどね・・・」

仕方なく嘘をつくしかなかった。彼女に会えないことが、本当の原因だなんて言えない。

正直に言うと、僕のイニシャルは、村のゲームセンターのどの機械の画面にも出ていなかった。たしかに、毎日ゲームセンターに通ってはいたけど、この夏は練習不足が原因で、僕の腕は少しも上がらなかった。ひょっとしたら、円盤が・・・と思って、大部分の時間は、あの岩場で過ごしたからなんだ。

「どんなにか、ゲームセンターのおじさんたちが笑っていることだろうよ、そのゲームのトップの子たちをね」

「どうして?おばあちゃん」

「だって、いちばんのおバカさんだからね」

「エッ・・・とんでもないよ、その正反対だ」

でも、おばあちゃんは僕の言うことを聞こうとしないで、
「”このイニシャルがいちばんバカな子の、これが2番めにバカな子の”ってね。画面を見ながら、おじさんたちはきっと言っているよ」

「でも、おばあちゃん、おばあちゃんはゲームのこと知らないで話しているよ。トップになって、自分のイニシャルをあそこに刻むのは、なみたいていのことじゃないんだ。それはもう、おおいに自慢出来ることなんだよ」

「自慢だって?なんの自慢だい?いちばんバカだって証明してみせて、笑われることがかい?」

「ウウ・・・」

「ちゃんと知っているんだよ、おじさんたちは。誰がいちばん、バカかってことをね。いちばんになるために湯水のようにお金を使い、あの機械の前で長いこと悲しい画面とにらめっこしているのは誰かって・・・。もうちょっと利口な子がするように、少し勉強したり、本を読んだり、散歩したり、お祈りしたり、困っている人を助けてあげたりすればいいものを」

と笑って言うと、寝室のほうへ引き上げていった。

おばあちゃんの言うことにも一理あると思った。でも、勉強したり、本を読んだり、お祈りをしたり・・・なんて退屈だろう・・・。それにおばあちゃんは、ゲームセンターの中に入ったこともないんだから、あの醍醐味がわかるわけがない。

あそこには、みんなのあこがれと尊敬とねたみを一身にかっているスターがいるんだ。

“3つの違ったゲーム”でいつもトップの、かの有名なEGY(訳注:スペイン語圏では子供に名前をつけるとき、名前の後ろに、父親、母親の順で、それぞれの最初の姓がつけられる)。これが彼のイニシャルだ。誰とも話をしないから、本当の名前は誰も知らない。いつも、ニコリともせずに画面の前で、彼の崇拝者を背後にしたがえて、その熟達したボタンさばきを見せている。

おばあちゃんは、あそこでときどき起きるあの手に汗をにぎるトップ争いのことを全く知らない。そして、それがちょうど、次の夜起こった。僕はいつもの岩場から、その日もまた、でもそのときは普段よりもずっと気落ちして、もうきっとビンカにもアミにも二度と会えないかもしれないと思いながら家へ向かった。

夕食後、広場のほうへ行ってみた。ゲームセンターは大騒ぎだった。BURというイニシャルのかなり上手な子が、”大宇宙の恐怖”という、トール帝國の惑星群の感星をいくつ破壊出来るかという、この夏いちばんの人気ゲームで、今にもEGYを追いぬく寸前だった。

みんな熱狂して見ていた。そして、なんとその場に、かのEGYもいあわせていた。彼は”タイラノザウルス・空手家”という別の恐竜のゲーム(そのゲームでも一番だった)を中断して、自分の王座をおびやかしている侵入者のゲームのもようを、最後まで真剣に見入っていた。ついにBURは82の惑星を破壊して、トップに踊り出た。なんと82もだ!

ゲームが終わったとき、BURは周りの子供たちから、ほんの少しの憧れと、いくらかの嫉妬の混ざった静かな祝福を受けた。ただ、たったひとりの子が口に出して「すごい!」と言ったきりだった(ここでは機械の音が大きすぎて、ほとんど誰も話をしない)。

そのあとで、順位を刻みこむわくわくする瞬間が訪れた。機械についている窓が開き、20位まで出ている中の一位のところに、彼のイニシャルが刻まれた。BURは僕が今まで決して手に入れたことのない名誉を手にした。

でもEGYは、この屈辱に耐えられなかった。この無礼者をなんとかへこまそうと、彼に直ぐ、挑戦状をたたきつけた。

1時間以上も、沢山のお金を使いながら(誰かが言っていたけれど、彼の家はすごいお金持ちで、彼はびっくりするくらいおこづかいをもらっているとか)、はじめのうちは調子の出なかった彼も、運がまわってきたのか、それともなにかのひらめきでもあったのか、天才なのか、ともかく、突然すごいスピードで惑星を破壊しだして、いつものごとくいつものとおり、1位に大きく差をつけて1位に復帰した。なんと驚いたことには、90もの惑星を粉砕したんだ!

ああ・・・だからこそ、彼は有名で、みんなに尊敬され、一目おかれているんだ。どうして、僕の年をとったおばあちゃんに、この興奮と感激が理解できようか・・・。

店を出て、家に帰ろうとしたとき、たまたま美しい偶然が僕の目に止まった。機械の画面の一番最後のリストにA・M・Iというイニシャルが入っていた。

いったい、なんていう名前なんだろう。と不思議に感じながら、しばらくその名と姓をあれこれ想像してみたけど、そのうちイニシャルのことはきれいに忘れてしまった。

よく日、また店に戻ってみると、信じられないような、どんでん返しが起こっていた。全ての機械の一位の座に、AMIというイニシャルが輝いていた!しかも、だれにも到達できないような信じられないような格段の差をつけて・・・。

誰かが言っていたけれど、EGYがやってきてその点数を見たとたん、くやしさに顔をまっ赤にして、ひと言も言わずに立ち去ると、もう二度とこの店に戻ってこなかったそうだ。

たぶん、とても自分たちにはかなわない、ほとんどプロ級のよそ者がやってきたと思ったのだろう。店のおじさんも迷惑がっていた。

なぜなら、今までのセミプロたちが気落ちして、店にほとんど顔を出さなくなってしまうからだ。いったい、誰があの点数をうわまわれるだろう?まだ、それほど差がないときには、挑戦のしがいもあるというものだろう。でも、今回は6倍から10倍も差がついちゃったんだ・・・。

その上、とても不思議なことには、誰もこのAMIという子がゲームをしているところを見ていないのだ。ただ、今日の朝、誰にも気がつかれないまま、機械にそのイニシャルが出ていたという。

でも、僕にとっては少しも不思議じゃなかった。これはアミが戻ってきて、彼らしいいつものいたずらをしただけなんだ。僕に戻ってきたことを知らせるために、アミはビデオゲームの画面に自分の名前を残した。

彼にとって、順位を変えることなど全くわけもないことだし、もし必要なら、彼自身がつくったあの天才的な機械で、ずっと離れた惑星からだって操作出来るんだから。

辺りがもう真っ暗になっているのも気にせずに、僕は矢のように岩場に向かって走った。希望と喜びで胸をドキドキさせながら、息をはずませて海岸にたどりついた。

そして、岩をのぼり、辺りを見渡した。でも、どこにもアミの姿も、円盤も見えなかった。前回、アミが来たときのことを思いだした。

あのときアミは、僕に遠隔催眠をかけて、最初の旅でアミ自身が刻んだ、翼の生えたハートのマークが見えないようにした。今それを探してみたら、ちゃんとそこにあった。でもその上には、飛ばされないように石で押さえて、1枚の紙が置いてあった。

アミからのメッセージだ、と胸がわくわくした。そしてまさにそのとおりだった。彼らしい、いつもの誤字の混ざった文だった。

林?・・・ああ、松林のことだ。松林でアミが待っているんだ。僕はそれを読んで、幸せな気持ちで一杯になった。あの素晴らしい世界が、また、僕の中に戻ってきた。ビンカ・・・アミ・・・。でも、少ししてから、そのメッセージに驚いた。

松林だって!いつもアミと出会う場所は、この岩場以外には考えられなかった。松林・・・でもよく考えてみると、全く理想的な場所だと思った。だって、昼間、誰にも見られずに会えるところといったら、松林以外にはないんだから。

その夜、僕は幸せ一杯の気持ちでベッドに入った。あと何時間かしたら、またビンカに会える。ウーン・・・。彼女のことをずっと考えていたら、なかなか眠りにつけなかった。彼女にもう直ぐ会えると思ったら、僕の胸は期待でうちふるえた。

それでもやっと眠りにつくと、その夜見た夢は、昨日までとは違って、ビンカの出てくる素晴らしい夢だった。でも、その内容はプライベートなことだから、ひーみーつ・・・。

次の朝起きると、僕は朝食も食べないで直ぐにでも、松林まで走っていこうと思った。だけどビンカに会いに連れていってくれるというアミの約束を思いだした。彼の円盤は、銀河系のどんなところにでも一瞬に”位置”することが出来る。

だから、僕は念入りにシャワーを浴び、髪を洗い、そのうえ生まれてはじめて、先週遊びにきたビクトルが置いていった香水までつけた。そして一番いい服を選んで着て、直ぐにそのまま家を飛び出そうと思っていたら、おばあちゃんが僕のために食堂のテーブルに朝食を用意して待っていた。

「どうしたの?ペドゥリート。いったい、そんなに慌てて。それにずいぶん上機嫌だね」

「ううん、なんでもないよ。だって、いい天気だからね、今日は・・・」

「なに言ってんの、曇っているよ。それに少し肌寒いし・・・」

「エッ!? ああ・・・」

これ以上、根ほり葉ほり探られてはたまらないので、ミルクをひと息に飲みほし、サンドイッチを片手に取ると、僕はすばやく外へ走りだした。

「ペドゥリートの秘密・・・だね」
というおばあちゃんの声が、背中のほうから聞こえてきた。

松林は海岸から少し離れたところにあった。村まで走っていき、このへんでは一番大きな街道まで出て、そこを横切って、いちめんの灌木の茂みの中を分け入って、急な山の斜面を松林のほうに向かって登っていった。

途中で、はたしてビンカは来ているだろうかと少し不安に思った。でも、前の旅でアミは、最初に僕のところへきて、それからビンカの惑星へ行くと言っていたのを思い出して、また新しい宇宙の旅を頭に思い描いた。雲が散り始め、灰色だった海は美しいエメラルドグリーンに変わっていった。松林の最初の松のところまでたどりついた。

数分後には、アミに会える。そしてそのあとにはビンカに!僕の胸は期待ではちきれんばかりだった。

林の中に入り、周囲を見渡した。でもなにも見えなかったし、なんの音も聞こえなかった。アミは僕を円盤のモニターで見ているはずだから、僕の居場所は知っているはずだ。

僕は探しまわるのはやめて、林の中の空地に座って待つことにした。

もどかしい気持ちのまま草の上に座っていると、ひょっとすると、アミは僕の後ろからそっと近づいてきて、僕を目隠しして”私はだーれ?”なんて言うかもしれないと想像した。

それは自分ながら気のきいた想像だと思った。そして本当に、誰かが僕の後ろから近づいてきたときには、僕はわくわくどきどきするのを出来るだけ抑え、目を閉じてじっとしていた。思ったとおり、暖かな手が僕の目をおおった。

アミはなにも言わなかった。そのとき、僕は全く予期していなかった香りと振動を感じ、飛びあがらんばかりに驚き、そして感動した。あの美しく深い感情が僕の中に再び蘇ってきた。ビンカのにおいだ!・・・。
彼女がそこにいたんだ!

まだ目を閉じたまま、僕はあの細くて長い指を、あの柔らかい髪を、そしてあの先のとがった耳を優しくなでた。

向き直ってひざまずくと、同じ姿勢をしたビンカがいた。あの愛らしい、底知れぬ深さをたたえた紫色の瞳が、僕の目の前にあった。もうアミのことも他のことも、なにも頭になかった。

たぶん、消えうせてしまったか、あるいはもっとも深い愛につれられて、僕達はもう、別の次元にゆきついてしまっていたのかもしれない。僕達はただ、うっとりと酔いしれ、なにかとてつもなく大きなものに身をまかせた。なにも話ができなかったし、また、その必要もなかった。

たとえ話そうにも、お互いに相手の言葉は理解できなかったし、翻訳器もなかった。

僕達は草の上に向き合う格好で寝転がった。二人の視線が合うたびに、このままひとつにとけ合っていきそうな幸せを覚えて、ただ、ほほえまずにはいられなかった。

夢よりももっと優しく、そよ風よりもそっとお互いにふれ合って、再会の感激が落ちつきはじめると、やっと少し現実に戻ってきた。

ようやく、僕達は大切な友だちのことを思いだした。

「アミはどこにいるの?」
と彼女に翻訳器のことも忘れて聞いた。

彼女は僕のほうを、少し驚いたように見て、「sdgdtnjfhadr div znfivghaer」となにかそんな感じの、全く聞きなれない音で言った。二人とも、小さな翻訳器のないことを思い出し、笑い出してしまった。

そしてそのときはじめて、僕の心の奥まで届く、彼女の美しい声に気がついた。

「ビンカ、なにを言っているのかはわからないけど、君の声、とても素敵だよ。なんでもいいから話して・・・」

たぶん、なんとなく僕の言いたかったことが理解できたのだと思う。彼女はその美しい声で話しはじめ、僕はその声にうっとりと耳を傾けた。目を閉じて、まるで彼女の心の底から発しているような心地よい声を、ずっと音楽を聴くように聞いていたかった。

「もういいだろう、禁じられたロマンスはそのくらいで」
とアミが笑いながら陽気に冗談ぽく言った。

あの白い服を着た僕達の友だちが、こっちに向かって歩いてきた。きっと同じ意味のことを言ったんだろう、ビンカの言葉でもなにかしゃべった。いつものように明るく輝いた彼が近づいてくるのを見たら、僕の心は喜びで一杯になった。

立ちあがって挨拶をしようとしたら、彼の背が前よりもずっと低くなっているように感じた。

僕は最近すごく背が伸びているから、彼と抱き合うのに少し身をかがめなければならなかった。ビンカは草の上に座ったまま、ほほえんでいた。心暖かい幸せな再会だった。
アミは翻訳器を僕達に手渡しながら言った。

「今、君は、僕よりかなり背が高くなっていることで、とてもいい気分に感じているだろう、ペドゥリート、えっ?」

「うむ・・・いや・・・とくに悪い気はしないけど・・・でも、アミはどうなの?イヤな気はしないの?」

「いや、たぶん、君がビンカを見たとき感じるほどじゃないと思うけどね・・・」

アミが何を言おうとしていたのか、全くわからなかった。僕は美しいビンカを見た。でも、なにも変わったところはなかった。

「でも、彼女、少しも変わったところなんかないけど・・・」

「立ってごらん、ビンカ」
とアミが言った。

彼女が立ちあがると、僕はぼうぜんとした。今までひざまずいたり、横になったりしていたのでわからなかったけど、彼女もずいぶん背が高くなっていた。こうして立ってみると・・・えーっ!僕よりはるかに大きいじゃないか!・・・僕の頭は彼女の鼻先のところまでしかない。

こうなるとは予想もしていなかった。みじめな気分になって、コンプレックスを感じた。きっと彼女は僕に幻滅して、もう僕のことを愛せなくなるだろうといったようなことを考えた。

僕は地面に目を落とした。でも、彼女は優しく僕にだきつき、僕のほおにキッスした(うん、でも、勿論、少し身をかがめてね)・・・。

「まったく、この未開人は、ものごとの外側しか見ないんだから。外見だけしかね」
アミがあどけない笑顔で言った。

「ペドゥリート、心配することないのよ。私、あなたのこと、前と同じように愛しているわ。知ってるでしょう、私達の愛は容姿なんかよりも、もっとずっと奥深いってこと」
ビンカも僕を元気づけるように言った。

「ウーン・・・わかっているよ・・・でも、ビンカ、きっと不愉快な驚きを感じたろう・・・」

「そんなことないよ」
とアミが話しはじめた。

「こっちにくるとき、僕がビンカにペドゥリートは君ほど背が伸びてないって警告したら、彼女はそんなこと全く問題じゃないって言ったんだよ。たとえ、君をポケットに入れて運べるようであってもってね、ハッハッハッ」

「本当よ、ペドゥリート。たとえあなたが私の親指くらいに小さかったとしても、私、あなたを愛さずにはいられないわ、わかるでしょう?少しくらいの背の高さの違いなんて、どうでもいいことよ。それにアミが言ってたけれど、あなたはこれからもまだまだ伸びるって」

「うん、これからもね。でも、君が僕よりさらに背が伸び続けなければいいんだけど。それにしても、今の僕はやっと君の鼻のところまでしかない。これ、少しどころじゃないよ」

「正確には、前髪のはえぎわだよ。でも、君はとてもコンプレックスを感じたんで、彼女の前では知らず知らずのうちに身体を少し曲げていたんだよ、実際より小さく思いこんでね。でも、背をまっ直ぐに伸ばしてごらん。僕の言ったことが正しいのがわかるよ」

アミの言うとおりだった。僕は少し背を丸めていた。背を伸ばすと、二人の違いはそれほどではなかった。彼女はよろこんで、僕に抱きついた。彼女の暖かい視線に、何も気にすることはなかったんだと思えた。

自分に自信を取り戻した。ビンカの腰に手をまわし、昔の映画のたくましい二枚目スターをまねてみた。

「本当さ、たとえお前がオレより少しくらい背が高くても、オレがお前の男だってこと、わかってるだろうね、ベイビー」

ビンカも僕も、そしてアミも笑いながら、
「その先史時代の男性優位主義を、本気にとってはいないだろうね、ペドゥリート」
と言った。

「なーに、たんなる冗談だよ」

「わかっているよ。でも、その男性優位主義がいくらか意味があったのは、ほら穴に住んでいた状態のころの話だってこと、くれぐれも忘れないでね。その時代には、筋肉や身体の大きさが、生きのびていくのに重要だったんだ。

そこでは、たぶん男のほうが女より身体が大きく背が高いほうがよかった。でも、君たちの惑星は、もうその段階を乗りこえつつあるんだからね・・・」

僕には、僕達の惑星やここに住む人間についての現実を、アミがまだよくわかっていないような気がした。

だって、今だに僕達の世界では、背の高いこととか、がっちりした筋肉といったものは、男にとってほとんど知性やお金と同じくらいに重要だし、たいていの女の子だってそういう男の子が好きなんだから・・・。

ビンカも少し混乱していたようで、アミの言葉をさえぎって、
「キアではテリが私達を支配しているのよ、アミ。それは彼らが、私達スワマよりもずっと身体が大きくて、がっちりしているからよ。まだまだ私達、その時代を乗りこえてないと思うわ」

「君は乗りこえているよ。そうだろう。君にとって、ペドゥリートの背が少し低いことなんか、どうでもいいことだろう?」

「うん、私の場合はね。でも、たいていの人は・・・」

「いいかい、ビンカ。みんなが、大多数の人がそう考えているみたいだからって、決してそれに従っちゃダメだよ。そうじゃなくて、君の心が命じるところに、君の知性に従うんだよ。多くの人は、人と意見が違うのが怖くて、あるいは自分できちっと判断出来るところまでいってなくて、他人と同じ意見をもっているようなふりをする。

でも本心は、君と同じように考えているかもしれない。ただ、君の本当の意見を知らないままだから、自分の考えに確信がもてないし、君の意見を支持することもできないでいるんだ」

アミの言っていることは面白いと思った。

彼はビンカに話し続けた。
「もし君がみんなのためになるような、よい考えを持っていたとする。でも、君にそれを発言する勇気がないとする。そうしたら、そのよい考えは決してみんなに知られることもなく、闇に埋もれてしまうよ。君の恐怖心のせいでね・・・。本当は君に賛成する人だっているかもしれないのに」

「アミの言うこと、部分的には正しいと思う。だって、アミと知り合って、あの素晴らしい惑星オフィルみたいな進んだ世界を訪ねたあとでは、僕達の地球はあまりにも矛盾だらけだし、残酷だと感じるよ。沢山の苦悩を抱えすぎている。

ほんの少しの良心さえあれば、全てが解決するっていうのにね。でも、僕、気がついたんだ。地球ではそう考えることさえ現実離れした”たわごと”なんだって。このテーマを口にすると、アブないと思われちゃうんだよ。

だからもう誰とも話さないって決めているんだ。このテーマだけじゃなくて別のことでもね。本当はそう思わなくても、みんなと同じように行動して、同じように発言して、そうして結局は口を閉ざしてやりすごすんだ。勿論、内心スッキリしないし、イヤだけど・・・」

「よくわかるよ、ペドゥリート。みんな君と同じようにしているのさ。自分だけが違った考えをしていると思っているから、自分の本当の気持ちは言わずにね。だって、それで人に笑われたり、白い目で見られたり、怒られたりするのはイヤだからね」

「そう、そう。それに殴られたりとかね」

アミは笑って言った。
「でも、できるときは、そのつど自分自身に素直でいるように心がけてごらん。冷静さと尊敬の念をもって、相手を攻撃したり傷つけることなく、本当に感じていることを表現することをね。

とくに君の考えが、愛の叡知に照らされているときには、君自身でも驚くよ、沢山の共鳴者がいることにね。だって君たちの世界は、ちょうど今、変わりはじめたところなんだからね」

そう言われても、僕にはそれが現実というより、たんなる理論にすぎないような気がした。

「もし、僕が自分の思っていることを全て言ったとしたら・・・イヤイヤ、やめておくよ、殉教者みたいにはなりたくない。苦しみを味わうのはイヤだよ、アミ」

「でも、君たちの世界が変わりはじめていることで、今では沢山の人々がもっと自然に従った真実の生き方を望むようになってきている。そのことに、まだ君は気がついていないんだ」

ビンカは自分がひきずっている沢山の疑問を、アミにぶつけた。

「私、人って根本的にそんなに違っているとは思わないわ。私の惑星では、若い人も年寄りもだいたい同じようにふるまっている。とてもよい人達もいるわ、でも一般的にはすごく表面的で利己的で、かたちのないものは信じない人が大部分よ・・・地球はどうか知らないけれど、ペドゥリート」

「同じだよ、まったく。ビンカ」

アミは大きく息を吸いこみ、少しほほえんで言った。
「どっちの惑星でも大部分の人々がだいたい同じようなふるまいをしている。だって、今だに人々やその生活に対する尊重も配慮もない古いシステムのまま、変わらずにいるんだからね。

こういうシステムは、物質的なものばかりに重きを置いて、愛を基調にしていない。なんであろうと、愛に基づいてないものは幸せをつくりだせないんだから、大多数の人達はよろこんでいないだろう。

でも、仕方ないと諦めて口をつぐんでいるんだ。こうして時だけは過ぎても、なにも変わってこなかった。でも、今は違ってきている。多くの人達は変わりつつある。それは周囲を見れば感じられるよ。

君たちは、より大きな力となれるように、そのプラスの流れに合流すべきなんだ。善や人生を守ることは、自分たち自身を守ることでもある、ということを忘れちゃダメだよ」

今、アミがその時どう言ったのか、全てをはっきりとは思いだせない。でも、最終的には納得させられてしまった。だからこれから先は、そして、ただ書かなくちゃならない本を書くだけじゃなくて、もっと正直に、自分の考えや感じたことなんかをあんまり隠さないで生きていこうと思う。

「でも、世の中に腹を立てながら生きていっちゃダメだよ」
とアミは陽気に笑いながら言った。

「暗いところばかり見ないようにね、だって影は明るいところよりも、ずっと少ないんだから」

僕達の周囲を見渡してみた。夏の朝の林の中は、息を飲むほど綺麗だった。今はすっかり晴れあがって、太陽が輝いていた。アミの言ったことが本当なんだってよく理解できた。

そうだよ。人は暗いところにばかり目を向けて生きていちゃダメなんだ。だってそうじゃないところのほうが、もっとずっと沢山あるんだから。

花や松やユーカリの香りを含んださわやかなそよ風が、僕達のほほを優しくなでていった。
アミは草の上に腰を降ろすと、伸ばした片脚の上にもう一方の脚を乗っけるような格好になった。僕達も彼と同じように座った。

「よかったね、二人ともまた会えて・・・。本当に幸せそうだよ」

そう言って、アミはちょっといたずらっぽく笑った。

「うん、とても幸せ」
僕達は二人で言った。

「じゃ、前の旅で、あんなに大騒ぎしなくてもよかったって気がついたろう。僕の円盤の中で、別れるときに・・・」

僕達は少しはずかしくなって、お互いを見つめ合った。アミの言うとおりだ。別れたくないといって、僕達が引き起こしたあの”反乱”、あんなことはすべきじゃなかった。

今、こうしてまた一緒にいる。今思えば、あれは過去の一瞬の夢のようだった。

「本当に僕達、バカだったよ、アミ」

「ヤッホー、自分たちで気がついてくれてよかったよ。じゃ、今日また別れる時には、もうあの騒ぎはないよね」

「エッ?また、僕達別れなくっちゃならないの?」
僕達は動揺して、お互いに抱きついた。

そんな僕達を見て、アミは笑いながら、
「またいつもの、無意味ないちゃつきだ・・・」

彼の言葉は、僕達の関係が決して”無意味ないちゃつき”ばかりのものじゃなくて、大きな愛で結びついているということを気づかせてくれた。1年のうちで、ほんの数時間しか会わせてもらえないなんて、残酷すぎる。そう思ったら、ビンカは僕の思っていたことをもう話しはじめていた。

「愛はいちゃつきなんかとは違うわ。それに私達のような双子の魂はなおさらよ。また別れなければならないとしたら、どんなにつらいことか」

「気持ちはよくわかるよ。君たちはまだ、自分達の肉体のもっと向こうにある出会いを楽しむということを学んでいない。残念だよ・・・」

アミの言葉を聞いて、僕は思い出した。そうなんだ。今ではもう、僕の心の中には、いつだってビンカがいる。それに毎晩のように僕は、想像のなかでビンカに会っていたんだ・・・。

その想像のデートはあまりにもリアルで、本当に彼女と一緒にいるような、一体になっているような気がした。そうアミに言ったら、ビンカも全く同じように感じていたと言った。

「本当に一体だったんだよ。肉体としてではなく、魂としてね」

「ああ、勿論。でも、同じじゃないよ・・・」
と僕は言った。

「本当の愛とは、肉体ではなく、魂にかかわることがらなんだ。だから、肉体の外観だけに魅かれた愛情というのは長くは続かないんだよ。ちょっとしわができたり、ちょっと体重が増えたり減ったりしただけで、もう愛情がなくなる。これは愛じゃない。外側の魅力にひきつけられたその時だけの愛情だから、深さも力もないしね。

本当の愛には、背の高さとか年齢とか見た目なんかは関係ない。本当の愛っていうのは、魂と魂のあいだに生まれるものなんだ。つまりその人が放射するエネルギーを愛するってことなんだよ。

だって、そのエネルギーがその人のことを一番よく教えてくれる、内的なものなんだからね。だから、この段階の感情には、もう距離も時間も存在しない。死でさえも、その愛を邪魔することはできないんだよ」

ビンカは感動に目をうるませて僕を見た。二人とも、自分達を結びつけている愛こそが、アミの話す愛なんだって知っていた。

僕達はまた抱き合った。するとたちまちあの時間の止まった、僕達以外のものをみんな忘れてしまう次元の中に入りこんでしまった。

何分後だったろう?アミはちょっと皮肉っぽく言った。
「正直に言うけど、このメロドラマの章はちょっと長すぎたね・・・」

僕達はその言葉で我にかえった。なんだかちょっと照れくさい。アミはいたずらっぽい笑みを浮かべてはいたけれど、その視線には感動をかくせないでいた。

「そのとおりだよ、ペドゥリート」
僕の頭の中を読んだアミが言った。

「その”無意味ないちゃつき”は感染しやすいよ。君たちの発する振動波は、化石のグァリサウリオまで感動させるよ。ハッハッハッ!」

僕はそのとき、辺りに色とりどりの沢山のチョウが、ひらひらと飛びまわっているのに気がついた。

「小鳥たちまでとっても元気にさえずっているわ、ペドゥリート」

注意して見ると本当だった。松林全体が歌ったり、おどったり、小鳥や虫や花々が、まるで僕達の幸福を祝ってくれているかのように、色彩のコンサートをくりひろげていた。

「君たちの幸せに誘われたんだよ」
とアミが言った。

「なんて、素晴らしいの!」
ビンカが草の上に座ったままで、僕達の周囲の陽気なお祭りを見ながら言った。

「これは君達の発した高い振動のせいだよ。もうわかっているように、愛は宇宙でもっとも高いエネルギーだからね。だから、この全ての光り輝いた”ダンス”は君たちの発している”音楽”のせいなんだよ・・・」

ビンカはひとつの結論に達した。
「ああ、つまり、愛は引き寄せ、喜びを生みだすんだわ・・・」

「そのとおりだよ、生きものはみんな、自然と宇宙の愛のほうへむかう傾向があるんだよ。愛は僕達の源だからね。だから、愛がないと遠のいていくんだよ」

そのとき、不愉快な人がどうして不愉快なのかわかった。それは彼らが愛を発してないからなんだ・・・。

「だって、不愉快な人というのは自分の心を開くことができないか、開こうとしない人達のことだからね。じゃ、そろそろ円盤へ行こう」
と言って、小さな宇宙人は立ちあがりながら、腰に付けていた円盤のリモコンを操作した。

>>>「もどってきたアミ」第2章 クラトの秘密

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