第10章 宇宙親交と救済計画
野原のくぼみに、小さな美しい円形劇場があり、そこで奇妙な容姿をした人々が、観客を前に何かショーを演じていた。
最初は、みな、仮装しているものとばかり思っていたら、すぐ、そうでないことに気がついた・・・オフィル人よりも、さらにずっと大きな人たちや、そうかと思うと子どものように小さい人たち、地球人そっくりの人たちや、それよりずっと痩せた人たちもいた・・・
とても可愛いいまなざしや、不思議なまなざし、大きな目や、小さな口、オリーブ色の顔をした鼻やくちびるのとても小さい人たち・・・。アミによく似た子どものグループが僕の注意をひいた。
「彼らは、僕の星からきているんだ」
とアミが教えてくれた。
それぞれの惑星から五人ずつ、手を取り合って陽気な輪をつくり、きれいなメロディーに合わせて踊っていた。
金色のボールがゆっくりと落ちてくると、下にいる人がそれを上につきあげ、残りの四人とともに輪の中に入って小さな輪をつくり、新しいメロディーを奏でて別の踊りを踊っていた。
その二つのメロディーがうまく調和していた。そのあいだ、外の大きな輪の人は、最初の音楽に合わせてゆっくりと踊り続けていた。
ボールが別のグループのところに行くと、前のグループは大きな輪に戻り、新しいグループがまた同じように中央に輪をつくって、別のリズムで踊っている。
それぞれのグループが中で踊り終えるごとに、観客は大喝采をしていた。
「もちろん、みんな、違った星からきているんだろう?」
「うん。それぞれのグループが、自分の星の踊りを披露しているんだ」
観客はオフィル人だけでなく、さまざまな世界の人々がいた。円形劇場の周囲はたくさんの旗でかざられていて、いろいろなタイプの円盤が、劇場の外の指定されたところに置かれてある。
また、僕たちと同じように、空中に停止してショーを楽しんでいる円盤もいくつかあった。
「どのグループが、勝っているの?」
「勝っているって、何に?」
「これ、コンクールじゃないの?」
「コンクール?」
「一番うまいグループを選ぶためのだよ」
「違うよ」
「それじゃ、いったいなんのためにやってるの?」
「それぞれみんな、一人ひとりが、自分の感じているものを表現して、観客に見てもらって、喜んでもらったり、自分でも同時に楽しんだり、友情のきずなを強めたりするんだよ」
「一番うまいグループに賞を与えたりはしないの?」
「誰も、自分を他人と比較なんかしてないよ。学んだり、楽しんだり・・・」
「地球では、優勝者が一番だよ・・・」
「でも、そういうやり方だと、一番ビリははずかしい思いをするし、いじけるよ。反対に受賞者にはエゴが広がるし」
とアミが笑って言った。
「でも、大変だけど、勝ちたいと思ったら、それなりに努力しなくちゃならない」
「また、他人に”勝つ”、他人より上にぬけ出すという考えだね。それは競争だし、エゴイズムだし、そして最後には分裂だよ。そうじゃなくて、ただ、自分自身と競争して自分自身にうち勝つべきなんだよ。他人と競争するのじゃなくてね。
進んだ文明世界には、そういった同胞との競争は全く存在しない。それこそ、戦争や破壊の原因になりかねないからね」
「そんなに大げさに考えなくたっていいと思うよ・・・健全な競技、単なるスポーツにすぎないんだからね・・・」
「でもそれはとても野蛮人的な発想だね。だって実際に、もう、地球のサッカー場ではその試合が元で、殴り合いはもちろんのこと、殺し合いにいたるような醜い争いが何度も起こっている。今、きみが見ているのは、それと違ってずっと健康的なスポーツだし、もっとずっと芸術的なんだよ」
「ちょっと、僕の国の子どもの遊びに似ているな」
「輪とか円は、宇宙のシンボルで、親交を象徴しているんだよ。その他、いろいろな意味があるけど、ひとつの世界ということもあらわしている」
「アミ、きみの胸の円はどういう意味があるの?」
「これは、地球人の言葉で言えば、人類とか、人間性とかをあらわしているんだ」
「その翼のついたハートは?」
「これは崇高で、自由で、とらわれのない愛をあらわしている」
「うわー!人類が愛によって結ばれる!」
と感動してさけんだ。
「きみは天才だよ!」
とアミは喜んで僕に言った。
ショーを見ているあいだ、アミは僕にいろいろと説明してくれた。
「ひとつひとつの動作が、それぞれ意味を持っていて言語の役目もしているんだ」
「なんて、綺麗なんだろう!おばあちゃんに見せてあげたいな。おばあちゃんは何て言うだろう・・・ところで、アミ、今、地球はなん時ごろ?」
「きみのおばあちゃんが起きるまでには、まだ四時間あるよ」
「ここからでもおばあちゃんの様子、見ることができる?」
「うん、できるよ。地球の軌道をまわっている我々の衛星と連結してね」
計器盤のボタンを操作すると、スクリーンに地球がとても高い角度からあらわれた。そして、すぐおばあちゃんの眠っているところがうつった。
「わー、なんてすごいんだ!・・・宇宙の全てを見ることができるの?」
「あまり、びっくりして誇張しすぎないでね・・・きみは宇宙の広さを知らないようだね」
「うん、よく知らない」
「我々は、もっとも近くにある数百万の銀河系を知っているけど、それ以上は、ただ遠くからながめるだけで、その向こう側にいったい何があるのかは全くわからない・・・。でもこのスクリーンのおかげで退屈することはない。だって、数百万の銀河系がわかればそれで十分じゃない?」
と笑って言った。
「そのうえ、あらゆる世界の過去にも波長を合わせることができる・・・」
「過去にだって!!・・・で、でも、どうしてそんなことが可能なの?」
「簡単なことだよ。みな、いろいろな方法で保管してあるんだ。全てわかっていて、”なぞのままであるものは、ひとつもない”んだよ。
今、その中のひとつの方法を教えてあげるよ。見てごらん。あそこに金色の気球が浮いているね。そう、あの気球が太陽の光を受けると、その反射した光はきみの目に届く。また別の方向に向かった光、例えば上のほうに反射した光は、無限の宇宙に向かって進む。
その光のどの点でもいいからキャッチするんだ。そしてそれを増幅すれば、未来の時点で、今、きみが見ているのと同じものを、過去のものとして見ることができるんだよ」
「すごすぎて、信じられないな!」
「もう少し先になったら、本当のナポレオンやシーザーやキリストを見せてあげるよ」
「本当?」
「うん。それにきみの何年か前の姿もね・・・でも今は、もう少しオフィルを観察してみよう」
円盤は円形劇場を後にして上昇した。輝いた円盤がこちらに接近したときに、僕たちに光の合図を送ってきた。アミもいたずらっぽく笑いながら合図を返した。
「だーれ、あの人?きみの友だち?」
「とても明るい陽気な人だよ。ずっと前に行ったことのある惑星の人なんだ」
「どういう意味なの?あの光のサインは」
「あいさつだよ。友情のしるしだ。お互いにとても好感が持てたんでね」
「どうしてわかるの?」
「感じなかったかい?」
「感じなかったと思うけど・・・」
「それは、自分をよく観察していないからなんだ。外部にはらうのと同じくらい、自分自身に注意をはらっていたら、たくさんのことが発見できるんだよ・・・。あの円盤が近づいてきたとき、何かある種の喜びのようなものを感じなかった?」
「わかんない。たぶん、感じなかったと思う。ひょっとするとぶつかるかもしれないと心配していたから・・・」
「また、とりこし苦労していたわけだ」
とアミが笑って言った。
「見てごらん。そこに飛んでいる円盤を。僕の星のだ。これと同じ型の円盤だよ」
「きみの星にも行ってみたいな」
「今日は時間がないから、また次の時につれていってあげるよ」
「本当!?」
「例の約束の本を書くならね」
「必ず書くよ。約束する。そうしたら過去にもつれていってくれる?」
「つれていってあげる」
「シリオの海岸にも?」
「うん」と笑って、
「なかなかいい記憶力をしているね。それにもし万一、地球が破滅するようなときにそなえて、救出した人々が住めるように用意してある星にもね」
「ということは、地球の破滅は避けられないっていうことなの?」
「それは、地球人次第だよ。統一して、国境を無くし、平等に、そして武器を無くして生きられるかどうかにかかっているよ」
「地球に、たったひとつの国をつくることだね?」
「うん。本当にそうすべきなんだよ。度をこした地方主義というのは、狭くて、貧しい愛だよ。まさにエゴイズムそのものだね。一カ所に執着することによって他の場所を愛する余地が少しも無いなんてね。宇宙はとても広大なんだよ。もっと考えて”大きく”愛すべきだよ。なかには、自分の住んでいる地区が世界中で一番良いところと思いこんでいる人もいるんだから」
「アミ、きみの言うとおりだよ。国境をなくして、みんなで仲よく暮らすべきだ。ただ、大気圏だけが、僕たちの国境だ!」
と僕は感動してさけんだ。
「それさえ必要ないよ。宇宙は自由なところだし、愛は自由だ。我々はなんの許可もなしにこの世界にこられるし、自由に好きなところへ行けるんだ」
「じゃ、みんな、ここになんの許可もなしにきているの?」
「もちろんだよ。そして、ここだけでなくて他のどんなところにでもね・・・」
「でも無許可できて、ここに住んでいる人たち、怒ったりしないの?」
「どうして怒ったり、迷惑がったりする必要があるの?」
とアミは、楽しそうに言った。
「よくわかんないけど、でもあまり素晴らしすぎて、簡単にはちょっと受け入れにくいよ・・・」
「ペドゥリート、いいかい。進歩した世界には宇宙親交というものが形成されているんだよ。全ての人はみんな、兄弟だし、友達なんだよ。誰も迷惑をかけない限り、我々の行き来は、全く自由に行われている。なんの秘密もなければ禁止もない。戦争もなければ、暴力もない。暴力は未開文明に特有のもので、未開人の形成している社会の特徴なんだよ。
我々の間には競争もなければ、誰も兄弟からぬき出ようなどといった野心を持っている人はいない。ただ、みな人生を健全に楽しむことだけを望んでいる。そして人々を愛しているから、我々の最大の幸福は、人に奉仕し、援助すること、そして人の役に立っていると感じられることによって得られるんだ。
みんな、平和に対するはっきりとした認識をもっていて、創造者を愛し、命を与えてくれたことに感謝し、それを十分に満喫する。人生とは我々にとって科学がどんなに発達しようと、とても単純なものなんだよ。
もし、地球の人が生き延びて、エゴイズムや人間不信を克服できたときには直ぐにでも、宇宙親交の仲間に入れてあげることができる。
もしそれが実現すれば、人生は今までのように生き延びるための、過酷で激しい生存競争から解放され、全ての人に幸福な生活が訪れはじめるよ。その時には我々は、地球が平和で不正のない連合した世界になるために、必要なものを全て与えよう」
「アミ、とても美しくて、素晴らしいことだね」
「だって、本当のことだからね。真実だけが美しいんだよ。地球に帰ったら一冊の本を書きなさい。それがひとつの声となり、ひと粒の砂となり、第一歩となるためにね」
「僕が言ったら、みんな、きっと僕を信じて武器を捨てて平和に暮らすようになるよ」
と確信をもって言った。
アミは僕の髪をなでながら笑った。でも、今度は少しもイヤじゃなかった。
だってアミは僕のようなたんなる子どもではないことが、もうはっきりしていたから。
「ペドゥリート、きみは本当に、むじゃきなんだね!地球じゃ現に今でもどこかで戦争をやっているんだ。それも残酷のかぎりをつくしてね。全く深く眠っている。とても深刻で、厳しく、本当に重傷だね。でも、宇宙の真実はそんなものじゃないんだ。もっとずっと美しいものなんだよ。野に咲いている花が厳しいかい?」
「ううん、とても、かれんだよ」
「もし、国を支配している人たちや軍隊が、花の創造者だとしたら、きっと、花びらのかわりに弾丸を、茎のかわりに非人道的で横暴な法をおくだろうよ・・・」
「じゃ、誰も僕のこと信じないの?・・・」
「子どもたちと、子どものような心をもった人たちは信じるよ。でも、たいていの大人は恐ろしいことだけが真実と思っている。物欲ばかりに目が行って、武器を崇拝したり、美しいものや真実などには全く興味がない。闇を光と思っている。人生の価値を完全にとりちがえているんだ。これらの人々は、きみが書く本には全然興味をもたないよ。
でも子どもたちは別だ。真実は美しくて平和だっていうことを知っているからね。彼らがきみを通して伝えた我々のメッセージを普及させることに貢献するだろう。我々は、決められた枠の中で人類のために救助をする。地球の人たちは、今、自分自身で努力しなければならないときを迎えているんだよ」
「じゃ、もし、地球の人たちが僕の言うことを、全くとりあわなかったとしたら、地球は自滅してしまうの?」
「数千年前にしたのと同じことを、しなければならなくなるかもね」
「すぐれた度数の人だけを救出するの?」
「そのとおりだ。ペドゥリート」
「ところでアミ。僕、700度ある?」
とまた、あらたに聞き出そうと試みた。
「平和のために何か貢献している人は、みなよい水準に達している。何かできるにもかかわらず、何もしない人たちは、本当に冷淡な人か、共犯者なんだよ。愛が不足している。良い水準に達していないんだ」
「じゃ、僕、家に着いたら直ぐ本を書きはじめるよ、アミ」
と少し驚いて言った。アミは僕を見て笑った。
「アミ小さな宇宙人」次の章(第11章)のリンク↓
「アミ小さな宇宙人」第11章 科学が霊性を発見するとき