「アミ小さな宇宙人」第6章 スーパーコンピューターと愛の度数について
第7章 UFO搭乗と目撃証拠
遠くの海に向かって進んだ。わずか数秒で海を横切り、すでに眼下には、いくつかの島があらわれはじめた。
東京上空を、下降しはじめる。空に向かってつき出た塔のような屋根の家が、たくさん見えてくるのかと期待していたら、高層ビルや近代的な大通り、公園、そして、道路にひしめく車や人などが、たくさん目に入ってきた。
「僕たちは目撃されている」
とアミは、点滅しはじめた表示ランプを指さして言った。通りでは人が大勢集まってきて僕たちのほうを指さしている。
円盤の外側のさまざまな色をした光があらたにつきはじめた。かなり上空で二分間ほど止まった。
「別の目撃証拠の指令が入っている」
と画面にあらわれた奇妙な記号を見ながらアミが言った。
急に昼の世界が消え、窓ガラスを通して星だけが輝いていた。
下のほうには遠くでわずかな光を放つ小さな町と、道を行く車のライトが見える他は、ほとんど何も見えなかった。
アミの正面にあるスクリーンのほうへ行った。普通に見たら、暗くて何も見えないのに、そこには眼下の全ての情景がくまなく照らし出されていた。
画面は完全に明るく、緑色をした一台の自動車が見え、中に二人の男女が乗っているのが見えた。
僕たちは地上二十メートルほどの高さにいる。点滅している表示ランプから、僕たちが彼らに見えていることがわかる。
窓からでは、暗くて見えないので、これからスクリーンで見ることにした。肉眼よりもずっとはっきり見えた。
二人の乗った車は僕たちの直ぐ近くにきて道の横に止まり、中にいた二人は車から降りて、驚いたような目を僕たちに向け、大きな身ぶりで何かを叫びはじめた。
「何を言っているの?」
「通信を求めているんだよ。彼らはUFOの研究家たち・・・というよりは宇宙人の崇拝者だ」
「それだったら答えてあげたらいいのに」
彼らは心底けんめいだった。
「それができないんだ。これも”救済計画”の厳格な指示にしたがわなければならない。交信は個人の気まぐれや意志では決められない。”上部”が決定することなんだ。それに偶像崇拝の共犯者にはなりたくないからね」
「ぐうぞうすうはいって?」
「宇宙の法を破っているっていうことさ」
とかなりまじめにアミが答えた。
「それはどういうことなの?」
「我々を神とみなしているのさ」
「それがどうしていけないの?」
と僕は言った。
「ただ唯一神だけが崇拝されるべきなんだ。その他はみな偶像崇拝さ。もし、この男女の間違った宗教観念を認めたとしたなら、それは、我々が神の座を奪ったことになるし、我々の、神に対していちじるしく尊敬の念を欠いた行為のあらわれともなる。もし我々を友とみなすなら、話は全く別なんだけどね」
そういうことなら、あの男女のカップルの間違いを正してあげるべきだと僕は思った。
「ペドゥリート」
アミは僕の考えていたことをキャッチして言った。
「宇宙の未開文明世界は我々から見ると、とても恐ろしい規律違反を犯している。たった今この瞬間にも”異端”だというだけで、多くの人々が生きたまま焼き殺されている。こんなことが多くの星で起こっているんだ。実際この地球でも数百年前にやっていたことなんだよ。
こうして話している今でも海の中では大きな魚は小さな魚を生きたまま食べている。この星はまだそれほど進化していない。人間にもいろいろな進歩の段階があるように、惑星もまた同じことなんだ。
未開世界を支配している法則は我々から見るととても残酷だ。地球でも数百万年前は別の法が支配していた。全てが狂暴で攻撃的で、皆、するどい爪や牙や猛毒を持っていた。
現在ではもっと進化した段階に達したおかげで、その時よりはいくらか豊かな愛が育ってきている。でもまだまだ文明社会と呼ぶわけにはいかない。まだかなりの残忍さが存在しているからね」
そう言うとアミはスクリーンの波長を合わせた。すぐ戦争の場面がうつし出された。
近くに子どもや老人も住んでいる建物をめがけて、兵士が戦車からロケット弾を発射している。
「これは地球のある国で、今、実際に起こっていることだけど、我々は何もできない。それぞれの惑星や国や人間の進歩に関しては、誰も干渉すべきではないんだ。
結局、みな、修行期間中なんだ。僕もかつては残酷な野獣だった。そして別の野獣にズタズタにされ殺された。また、野蛮な段階の人間だった時もあった。人を殺し、自分もまた殺された。とても残酷な体験をしてきたんだ。なんどもなんども死んで、少しずつ宇宙の基本法則にそった生き方を学んでいった。今、僕の人生はずっと良くなっている。でも誰にも神のつくった進歩のシステムに反することはできないんだ。
このカップルは宇宙の法を破っている。我々を偉大で荘厳(そうごん)な神と混同し、神にささげるべき崇拝と愛を我々のほうに向けている・・・さっき見た兵士も殺してはいけないという宇宙の法を破っている。彼らはその代償を自分で支はらわねばならない。こうやって少しずつ学んでいくんだ。ある人間とかある世界が一定の進歩の段階に達したときのみ、進歩のシステムに違反することなく我々の援助を受けることができるんだよ」
この話を聞いたときには、僕はアミの言ったことの半分すら理解できなかった。
でも、あとになって思い出してみて、はっきりとわかった。でもそれはもう彼が旅立ってしまったずっとあとのことで、当時の僕には彼の言ったことをおおよそしか表現することができなかった。
“スーパーコンピューター”の指令待ちでそこにとどまっているあいだ、アミは日本のテレビに波長を合わせた。
そしていつもの上機嫌でニュースに見入った。
テレビのインタビュアーがあらわれて通行人にマイクを向けてインタビューをしている。
ひとりの女の人が大きな身ぶりで、空のほうを指さしている。
何を言っているのか全くわからなかったけど、どうやら僕たちのUFOの目撃証言をしているらしい。
他の何人かの目撃者もそれぞれの見解を述べていた。
「何を言っているの?」
「UFOを見たんだってさ・・・全く頭のおかしい人はどこにでもいるよ・・・」
とアミが皮肉に笑って言った。
そのあと、メガネをかけた男の人があらわれ、黒板に何か描きながら説明していた。
それは太陽系の地球と他の惑星をあらわしていた。長いあいだ話をしていた。
すぐに、彼が天文学者だということがわかった。
アミは、翻訳器を使っていたので、その男の人が話している言葉がわかるらしく番組の流れをよく理解しているようだった。
「何を言っているの?」
ふたたび聞いてみた。
「地球を除いて銀河系には知的生物が存在していないことは科学的に証明されている、と彼は言っている。そしてUFOらしきものを見た人たちは集団幻覚におそわれているのだからと、精神科に行くことをすすめている・・・」
「本当に?」
「うん、本当に」
と笑って答えた。
科学者はなおも話し続けている。
「今、何を言っているの?」
「たぶん、地球のように、高度に発達した、文明は宇宙に存在しているだろう。でもそれは計算によると二千もの銀河系宇宙にたったひとつの割合になると言っている」
「それは、どういう意味?」
「もしこの銀河系だけでも数百万もの文明があると知ったら、かわいそうに、彼は取りみだしてしまうだろう・・・」
しばらく、二人して笑った。
僕にとって科学者からUFOが存在しないということを聞くのはこっけいなことだった・・・だって僕はその番組を、UFOから見ているんだから。
一時間ほどそこにとまったあとで、表示ランプは消えた。
「自由になったよ」
とアミが言った。
「じゃ、またどこか他のところへ行けるの?」
「もちろん、こんどはどこへ行ってみたい?」
「う~んと、イースター島!」
「あそこは今、夜だよ。ほら見てごらん。もう着いたよ」
「ここがイースター島?」
「そのとおり」
「なんてはやいんだ!」
「はやいと思う?じゃちょっと待って・・・窓の外を注意して見ていてごらん」
すぐに風景が変わり、今度は、とてもきみょうな砂漠の上にいる。空は少し暗すぎる感じで、青みがかった月だけが明るく、あとはほとんどまっ黒だ。
「ここはどこ?アリゾナ?」
「月だよ」
「えっ?月?」
「そう、月だよ」
「じゃ、あれは・・・」
今まで、てっきり月だと思っていた空の星を指さして聞いた。
「地球だよ」
「えっ、地球?」
「そう、きみのおばあちゃんが寝ているところだよ・・・」
驚嘆のあまり口があいたままだった。それは実際、水色をした本当の地球だった。あんな小さな星の中に山や海やたくさんの大きな建物があるのかと思うと、とても信じられない気持ちだった。
不思議なことに、記憶の奥にしまいこんであった思い出が次々とわき出てきた。
子どものころよく遊んだ小川、コケで一面におおわれた壁、庭に飛びかうミツバチ、夏の午後の牛車・・・それらがみんなあの星の中につまっている。みんなあの小さな水色の球の中につまっているのだ・・・。
突然太陽が目に入った。地球よりもはるかに遠く見えたけど、ずっとまぶしかった。
「どうしてあんなに小さく見えるの?」
「ここにはルーペのように、拡大して見せる作用をする大気圏がないから、地球で見るよりもずっと小さく見えるんだよ。でも、もしこの特製ガラスの窓を通さずに見たら、あの小さな太陽はきみを焼き殺してしまうよ。有害なある種の光線を濾過してくれる大気が無いためにね」
月の光景は全然好きになれなかった。荒れはてた感じで薄暗く、怪しげな世界だった。地球から見たほうがずっと綺麗に見えた。
「今度はもっと綺麗なところへ行けない?」
「人の住んでいるところ?」
とアミが僕に聞いた。
「もちろん!でも怪物のいないところね・・・」
「だとすると、ずいぶん遠くに行かなくちゃいけないね」
と言ってアミは操縦桿を動かした。かすかな振動を感じた。星が長くのびて光の線になった。窓には白く輝いたもやがキラキラ反射しながらあらわれた。
「どうしたの?」
少し驚いて聞いてみた。
「位置を変えているんだよ・・・」
「どこに?」
「とても遠い星に。数分間待たなければならない。とりあえず音楽でも聞くことにしよう」
アミは計器盤のボタンを押した。おだやかだけど聞きなれない奇妙な音が内部の空間を一杯にした。アミは目を閉じてうっとりと聞きはじめた。
その調べは、僕が今まで聞いたことのあるどんな音楽とも違っていた。
突然、空気をゆるがす低音が操縦室を一杯にした。
しばらく続いたあと、高い旋律に変わったかと思うと、突然中断したまま数秒間、沈黙が続いた。
そして、そのあとで速いリズムが上下して、ふたたび低音が少しずつ高音に変わっていき、同時に変化のある調子の、うなり声のような音と小さな鐘の音が聞こえた。
アミはうっとりとして音楽に聞き入っている。彼はそのメロディーをよく知っているようでくちびるや手の軽い動きがほんの少し音楽よりも先行していた。
中断するのは気がひけたが、その音楽はとうてい好きになれなかった。
「アミ」
と呼んでみた。
答えはなかった。アミはその短波放送に雑音が混じったような音楽に深く聞き入っていた。
「アミ」
「あ!失礼・・・何?」
「悪いけど、僕、この音楽あんまり好きじゃない」
「ああ、そうだろうね。この音楽を楽しむには前もって多少の”手ほどき”が必要だ。じゃ何かきみが知っているようなのを探そう」
アミはそう言って計器盤の別のボタンを押した。軽快なリズムとメロディーが流れてきて、すぐに僕は楽しい気分になった。
メインの楽器は全力で走っている蒸気機関車の煙突から出る蒸気のような音がした。
「なんて楽しいんだろう!・・・この汽車みたいな音を出す楽器はなんて言うの?」
「何を言い出すんだ!」
アミはちょっと不機嫌になったように叫んだ。
「きみは僕の星のもっとも栄誉に満ちた声を侮辱したんだ。この素晴らしい声を汽車の騒音に例えるなんてひどいよ!」
「ごめん、ごめん。知らなかったんだ・・・でも、吹き方がとてもうまい!」
と間違いをごまかしながら言った。
「この暴言者!はじ知らず!」
とアミは冗談に僕の髪をつかんで、大げさに叫んで言った。
「なんてこった。僕の国の最高の歌手をつかまえて、吹き方がうまいとは!」
二人ともこらえきれずに大声で笑った。
その音楽は実際踊り出したくなるような気分にさせた。
「そのためにつくった曲だよ」
とアミ。
「踊ろう!」
と言って、急に立ちあがり手をたたきながら踊りはじめた。
「さあ、踊ろう、踊ろう!」
と僕をうながした。
「さあ羞恥心なんかふりきって!きみは本当は踊りたいんだ。ためらっているのはきみ自身じゃない・・・本当の自分自身になる自由を手に入れることを学ぶんだ。もっと自由になるんだ・・・」
僕はいつもの羞恥心をかなぐり捨てて、夢中になって踊りはじめた。
「ヤッホー!ヤッホー!」
長いあいだ踊り続けた。とても愉快だった。浜辺を走ったり、飛び上がったのとよく似た感覚だった。やがて音楽は終わった。
「こんどは何か少しくつろげる音楽がいい」
と言うと計器盤のところへ行って別のボタンを押した。
クラシック音楽が流れてきた。聞きなれた音楽だった。
「それは地球の音楽じゃないか」
「そうだよ。バッハだ。素晴らしいね。どう?好きかい?」
「うん・・・もちろん、きみも好きなの?」
「僕も大好きだよ。地球のものは円盤にはおいてないとでも思っていたの?」
「うん。地球のものはみな、きみたちには、野蛮に感じられるのかと思っていたよ」
「そんなことはないよ」
と言って別のところを押した。
「これはジョン・レノンじゃないか!ビートルズだ・・・!」
地球には何も良いものがないのかと思いはじめていたので、とても驚いた。
「ペドゥリート、もし本当に良い音楽だとすれば、それは地球だけでなく、普遍的に評価されるよ。そして地球だけじゃなく、沢山の惑星のいろいろな時代の、あらゆる芸術が、多くの銀河系にコレクションされているんだ。我々は地球で行われるさまざまなことを録画して保管しているんだ・・・。芸術は愛の言葉だ。そして愛は普遍的だ・・・。さあ、聞こう」
アミは目を閉じてひとつひとつの調べを味わっているようだった。そしてちょうどジョン・レノンが歌い終わったときに、僕たちは人の住んでいる別世界へ到着した。
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「アミ小さな宇宙人」第8章 オフィル星と地球を脱出した人々